実務歴30年のベテラン弁護士がChatGPTで民事裁判の資料作成
ただ、自分の専門あるいは得意とする分野で使うからといって油断すると酷い目に遭います。
米国では2023年5月、実務歴が30年にも及ぶベテラン弁護士がChatGPTを使って民事裁判の資料を作成したところ、そこに記載されていた数々の判例がいずれも虚偽であることが分かって大問題となりました("Here,s What Happens When Your Lawyer Uses ChatGPT," Benjamin Weiser, The New York Times, May 27, 2023、"The ChatGPT Lawyer Explains Himself," Benjamin Weiser and Nate Schweber, The New York Times, June 8, 2023)。
事の発端は2019年8月、ロベルト・マタという男性がエルサルバドルからニューヨークに向かう航空機内で配膳カートがひざに当たって怪我をしたことです。
マタ氏はその時点では何の法的アクションも起こしませんでした。しかし最近になって、その怪我を理由に同航空機を運用していた南米コロンビアのアビアンカ航空を訴えました。
これに対しアビアンカ航空の弁護団は「既に、その件は時効だ」との理由でマンハッタン連邦地裁に同訴訟の棄却を求めました。しかし原告(マタ氏)側のスティーブン・シュワルツ弁護士は「時効は成立せず、この裁判は実施されるべきだ」と反論しました。
シュワルツ弁護士は、過去に航空会社が被告となった幾つかの訴訟で、実際に時効が成立しないで裁判が実施されたと主張し、それらの判例が記載された10ページの資料を提出しました。
「リサーチのためにChatGPTを使い、結果的にそれに騙された…」
そこには「マルチネス対デルタ航空」「ジッカーマン対大韓航空」「ヴァーギーズ対中国南方航空」など、いかにもそれらしい呼称の判例が列挙されていました。
ところがアビアンカ航空の弁護団も判事も、その資料に記された6件の「判例」をデータベースなどから確認することができませんでした。
そこで判事は(資料に記載されたものではなく)本物の判例のコピーを提出するようシュワルツ弁護士に命じました。
これに対して同弁護士は6件の判例全てがChatGPTによって作成されたことを明らかにし、それらが実際には存在しない架空の判例であることを認めました。
ここから大騒ぎとなりました。
シュワルツ弁護士は宣誓供述書の中で「自分は意図的に法廷や航空会社を騙すつもりはなかった。あくまでリサーチのためにChatGPTを使い、結果的にそれに騙された」とする旨を述べました。