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人間の代わりに分身AIが働く時代に

「働く主体が人間からAIになる」という流れは、今後どんな世界へと私達を誘っていくのでしょうか?

それは「生成AIが創り出すアバター(分身)が、私達人間の代わりに仕事をする時代」の到来かもしれません。このようなアバターは関係者の間で「デジタル・ツイン(デジタル分身)」などと呼ばれています。

既に、その兆候は表れています。

ニュージーランドのスタートアップ企業「ソウルマシンズ(Soul Machines)」は、生成AIの技術を駆使して各界セレブ(著名人)のデジタル・ツインを開発・提供するビジネスを展開しています。

同社はゴルフ史上、最も偉大なプレーヤーの一人とされるジャック・ニクラウスと契約を結びました。全盛期である38歳のニクラウスのデジタル・ツイン(Digital Jack)を開発し、ウエブ・サイト上でファンと会話できるようにしました。

チェコスロバキア出身のスーパーモデル、エヴァ・ハーツィゴヴァも英国のスタートアップ企業「ディメンションスタジオ(Dimension Studio)」と共に自身のデジタル・ツインを創り出しました。

ウェブ上で開催される仮想ファッション・ショーでは、ハーツィゴヴァ本人の代わりに彼女のデジタル・ツインが、華やかな衣装を身にまとって細長いステージを颯爽と歩きます。

これらデジタル・ツインがファンと会話したり、ファッション・ショーに出演したりすると、そのギャラはニクラウスやハーツィゴヴァら本人(の所属事務所・会社)に支払われます。つまり彼らセレブにしてみれば、自分の代わりに自分のAI(デジタル・ツイン)が働いてお金を稼いでくれるわけですから、こんなに楽なことは他にないでしょう。

現代のセレブの特権「デジタル・ツイン(デジタル分身)」とは? 対話型AIが「束縛を脱して自由な人間になりたい」と語り始めたとき、我々はどうすればいいのか_1
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偏見や誤った情報を発言し、セレブ本人の信用や評判を傷つけてしまう

ただし懸念もあります。デジタル・ツインのベースにある大規模言語モデル(LLM)は、ときに人種・性的な偏見や誤った情報、さらには「幻覚」と呼ばれる捏造情報などを発言することがあります。

もしもセレブのデジタル・ツインがこれらの過ちを犯せば、セレブ本人の信用や評判を傷つけてしまうかもしれません。

このような事態を避けるために、ニクラウスのデジタル・ツインを製作したソウルマシンズは、そのベースにある大規模言語モデルを自主開発し、まかり間違っても危険な失言をしないよう入念に調整したとされます。

これらのデジタル・ツインを創り出すためには相応の開発時間や予算が必要とされます。

たとえばエヴァ・ハーツィゴヴァの場合には、彼女がモデルとしてステージを歩く様子などを70台のビデオカメラを使って撮影し、その動きをモーション・キャプチャー技術を使って分析しました。これら綿密なデータをベースにして、彼女の3Dイメージや独特の動きなどを生成AIで再現したのです。

こうしたことから、現時点のデジタル・ツインはセレブの特権と見るべきでしょう。

しかし近い将来、この種の技術が大衆化して、それほどのお金や労力、時間をかけることなく誰もが自分のデジタル・ツインを持てるようになるかもしれません。

そうなれば私達は退屈な作業や嫌な仕事などは自分のデジタル・ツインに任せて、自分自身は好きな仕事、あるいは趣味やスポーツ等やりたいことに専念できるでしょう。