日本中の獣医師の協力
そして、患者ネコへのAIM投与の研究は、日本中からたくさんの獣医師の先生方に多大な協力をいただいて、2020年までに3回のセッションを行うことができた。
前述のように、AIM製剤の開発とともに重要なのは、すべてのネコでじわじわと進んでいる慢性腎臓病のうち、どのステージでAIMを投与するのが最も治験に適しているかを探ることだった。
そこで、1回目は2017年1月から打ち合わせと調整を始め、小林先生を中心にさまざまなステージの患者ネコを探していただき、それぞれのネコにAIMを1度だけ投与する試験を6月から約3カ月間行った。
2回目は2018年冬から打ち合わせを開始し、鳥取の倉吉市にある公益財団法人動物臨床医学研究所の取りまとめで、研究所と関係している何人かの獣医師さんに、主に軽症のIRISステージ2やステージ3の早期の患者ネコを中心にAIMを数カ月間投与していただいた。
そして3回目は、2019年冬から東京の高島平手塚動物病院と川崎市の竹原獣医科医院、小林先生にもご協力をいただき、2〜3カ月すると状態が急激に悪くなるIRISステージ3の後期に焦点を当て、3カ月間AIMの投与を行った。
その結果、やはり楽ちゃん〔ステージ3でAIMを投与したネコ〕のステージ、ステージ4に入る手前のステージ3の後期にAIMを投与すると、数カ月ではっきりAIMの効果が観察できるという点で、治験に適していることが確認された。
この過程で、高島平手塚動物病院の患者ネコで、ステージ4に入ってしまっていた13歳のてとちゃんにもAIMを投与する機会があった。
てとちゃんはすでに重度の腎不全になっていて、冒頭に紹介したキジちゃん〔初めてAIMを投与したネコ腎臓病の末期だったが、大幅に症状が改善した〕と同様のケースである。投与前には立っているのがやっとで、動きも少なく食事もとれない状況であったが、AIMを投与した1週間後には、自分で元気にご飯を食べるようになっていた。
興味深いことに、キジちゃんと同じく、尿毒症の典型的な症状である全身の炎症のマーカー、血中のSAAの数値が、AIMの投与後大幅に低下していた。
前述したように、ステージ4のネコは、症状が個体ごとにかなり異なるので、治験の対象としては不向きであると思われるが、キジちゃんやてとちゃんのように、AIMを投与することで、全身の炎症を軽減させ症状を改善できるケースもあることが明らかになった。
このAIM投与研究の間、たくさんの獣医師の先生方とおつき合いをしてみて、やはり人の医者も動物の医者も、純粋に「〈治せない病気〉を患者さんのためになんとかしたい」と真剣に考えていることが実感できた。
昨今、「ワンヘルス」というスローガンのもと、日本医師会と日本獣医師会が共同で病気の研究を行う機運が高まっているが、人の医者も動物の医者も、「患者さんを助けたい」という気持ちが最大のモチベーションで、日々医療に勤しんでいることがよくわかる。
特に、動物臨床医学研究所理事長の山根義久先生には多くのことを教えていただいた。
もともと吉本で芸人をめざしたのち獣医師となり、地域で臨床医として活躍されてから、東京農工大の教授に抜擢され、多くの若い獣医師を育てたという特異なカリスマで、その筋の通った豪快な生き方には私も大変魅了された。
山根先生からご紹介いただいたおかげで、たくさんの獣医師の先生方と一緒に研究してこられたのだと思う。先生には感謝しかない。