ロシア依存回避のため原子力発電を推進
日本人は、フィンランドと言えばクリーンエネルギーといったイメージを持っているかもしれない。
たしかに、フィンランド政府は2022年10月に、風力発電、太陽光発電関連など6つのクリーンエネルギー・プロジェクトに対して総額1億ユーロの投資支援を発表した。
だが、本当に注目すべきなのは、原子力分野でのフィンランドの取り組みであろう。
フィンランドでは、原子力発電が推進されている。発電量から見たフィンランドの電力供給構成は、2020年には原子力が33.8%とトップを占めた。次いで、水力が23.0%、石炭が7.5%、天然ガスが5.8%、石油が0.3%であった。
なお、スウェーデンにおける原子力発電のシェアは、30.0%とフィンランド同様に大きい。ウクライナ危機後にノルウェーは、ロシアに代わって、ヨーロッパ最大のガス供給国となっている。
ウクライナ侵略の前から、フィンランドは、ロシア依存の回避に取り組んでいた。
2015年と2020年で、ロシアからの天然ガスの輸入量を比較すると、フィンランドでは減少している。ロシアに対して強い警戒感を抱くバルト三国のエストニア、ラトビア、リトアニアでも、同じ期間に輸入量が減少した。
これに対して、ドイツ、イタリア、ハンガリーなどでは、輸入量が増加した。ロシアからのエネルギー輸入量の増減には、各国のロシアに対するスタンスも、ある程度は影響しているだろう。

原発増設に対する支持は、3年半で25%も増加
エネルギー輸入について世論の動向を見てみると、大きな影響を与えているのは、やはりロシア・ファクターである。電力輸入元としては、北欧諸国とエストニアに対しては69%が肯定的である一方で、ロシアに対しては87%が否定的な態度を示している。
原子力発電に対しても、フィンランド世論は肯定的な反応を示している。
2022年12月に、フィンランドのシンクタンクEVAによって実施された世論調査によれば、67%が原子力発電所の追加建設が最良の解決策だと回答した。
これに対して、原発廃止への反対は87%にのぼっている。原発増設に対する支持は、3年半で25%も増加している。深刻なエネルギー危機に対しては、再生可能エネルギーの増産だけでは対応できないという考えが、背景にはあるだろう。
また、エネルギー安全保障の観点から見れば、ロシアへのエネルギー依存の回避という点が、原子力推進の動機といえよう。フィンランド世論は、極めて現実的な反応を示しているといえる。
フィンランドと日本には、エネルギー資源がともに乏しいという共通点がある。国家の根幹にかかわるエネルギー問題については、感情論は必要ないどころか、かえって有害である。フィンランドのエネルギー政策と世論の冷静な判断は、日本にとっても大いに参考になるところだ。