アベノミクスで雇用は増えたが……
――安倍元首相が国葬に値する功績を残したのか否かで世論はかなり割れましたが、そもそも安倍元首相が取り組んだアベノミクスをお二人はどう評価していますか?
高橋 私はアベノミクスは十分に成果があったという見解。雇用政策でもある金融政策をわからない政治家がほとんどなのに、その重要さをちゃんと理解してアベノミクスに取り入れ、雇用を飛躍的に増やしたことは評価しなければならない。
――アベノミクス第一の矢は異次元の金融緩和でした。
高橋 そう。「金融緩和すれば雇用が生まれる」というのは世界標準的な話なんです。そのことを私は財務省にいた頃、米プリンストン大学に留学し、後にFRB議長になるバーナンキやノーベル経済学賞に輝いたクルーグマンといった教授陣から学んだ。
それで安倍さんから金融政策についてレクチャーしてほしいと求められた時にそのことを伝えたんです。安倍さんは当初は半信半疑だったんだけど、だんだんと理解を深めてアベノミクスの第一の矢に異次元の金融緩和を掲げた。
古賀 それまで日本は財務省が主張する財政「健全化」路線が基本で、「健全化」と言っても、増税狙いが露骨で、高橋さんたちから緊縮財政だと批判されてましたね。
高橋 緊縮を進めると、失業者があふれ出る。一国の経済を評価する時、私はなにより雇用を重視して分析する。だって国民が食べていくための仕事を作り出すことは、国家の一番の経済目標でしょう。アベノミクスは歴代政権のなかで最も、それも断トツで雇用を増やした。民主党政権なんて足下にも及ばない。
民主党政権時代は60%台に低迷していた新卒の就職率もいまでは90%台になっている。これってすごいことだよ。あとは給与が上がっていれば政権として100点満点をあげてもいいんだけど、増えたのは名目賃金のみで実質賃金は伸び悩んだので、その分マイナス20点。それでもトータルで80点をあげてもいい。これはかなりの高得点だ。そんな人は歴代の首相でいませんよ。
古賀 高橋さんは、マクロ経済的な部分のみを見て評価するという立場ですよね。でも、僕はその立場はとらない。ある政権の経済政策を評価するには、単に雇用が増えたというだけでは不足でしょう。
賃金が高い質の良い雇用が増えたのか、社会保障も含めて富が国民に適切に分配されているかどうか、イノベーションが起こって国力が上がり、国民が豊かに過ごせるかどうか? そうした点の評価が欠かせない。この問題意識に照らし合わせると、アベノミクスはまったく合格点に達していませんよ。