実際、“同意書ライブ”の現場はどうだったのか
僕は昔からのGAUZEファンで、ライブには数えきれないくらい行っていたが、毎回めちゃくちゃ盛り上がるライブの裏で、こうした問題が起こっていることにまったく気づいていなかった。
ストイックなGAUZEはその長い活動歴の中で、ごくわずかな例外を除きステージ上でMCをすることがなく、彼らからのメッセージは、発表する曲の歌詞とライブパフォーマンスのみに集約されていた。
ライブ告知などのバンド側からの発信も、Twitter(現X)に最低限の情報が出るのみだし、インタビューなどの取材に応じることもぼぼなかったので、“痴漢への警告”という非常の形であれ、こうしてバンド側から楽曲以外のメッセージが出される事態に、とても驚いたものだ。
それだけ、舞台裏で感知していた痴漢被害は相当に深刻だったのだろう。
1980年代には、強烈な破壊パフォーマンスを行うノイズユニットのハナタラシが、「開演中にいかなる事故が発生し危害が加わろうと主催者側に何ら責任がない」という誓約書にサインを求めたライブがあったが、その後は聞いたことがなかった。
だから僕は、異例の“同意書ライブ”に正直少しだけ興奮しつつ、2018年12月15日に行われたライブ会場に足を運んだ。
記憶は曖昧だが、実際には同意書に住所氏名などを記すことはなかった。
入り口に設置された、上記文章と同じものに目を通し、同意した証拠としてチェックの印をつけたら中に入れたのだ。
バンドやライブハウス側としても、個人情報の取り扱いという現代的問題との兼ね合いに苦心したのだろう。
1980年代からジャパコア(ジャパニーズハードコア)界のトップに君臨し続けたGAUZEのライブには、“この人たちは普段、どこでどうやって生活しているんだろう?”と不思議に思うほどのコワモテパンクスが集結する。
客の8割は男性だが、いつも一定の女性客がいて、果敢に前方のモッシュピットに突っ込んでいく人もいた。
そんな中に、痴漢被害者が出ていたのだろう。
この日の“同意書ライブ”は特に物々しい雰囲気でもなく、いつもの客層で埋め尽くされた会場でいつもどおりにはじまり、無事に終わった。
痴漢の件にバンド側からことさら言及することはなかったし、誰かがステージ上に引きずり上げられることもなかった。
警告が功を奏し、痴漢野郎は鳴りを潜めたのだろう。