住民票もなく、自由に移動することも、働くこともできない。難民申請が驚くほど難しい日本で暮らす移民たちの現実とは。

女子高生サーリャの目を通して描く、日本のクルド人難民の現実『マイスモールランド』【川和田恵真監督×嵐莉菜さんインタビュー】_a

JR品川駅と言えば東京の玄関口。一日の利用者数が多い駅としては東京では6位、全国では9位というビッグ・ターミナルです。ベイエリアに繋がる港南口から品川埠頭行きの都バスが通っており、9分ほどで東京出入国在留管理局(入管)に到着します。平日、このバス停を通りかかると、様々なルーツを持つ人々が列をなしていて、どこの国から、どういう経緯でこの日本にやってくることになったのか、それぞれの人に歩みを聞いてみたい気持ちになります。ここ数年、入管に収容される人の人権を侵害する報告もされていて、社会的な関心が高まってもいます。

日本は1981年に難民条約に加入し、難民の受け入れがはじまってから30年以上経ちます。先進国において世界でも有数の難民認定が厳しい国として知られています。法務省入国管理局「我が国における難民庇護等の状況」の資料によると、2019年の日本で難民認定申請を行った外国人は10,375人、認定を受けた人は44人で、認定率にすると0.4%といいます。

では、認定されなかった残りの99.6%の人はどのような生活をしているのでしょう。

その知られざる生活は、川和田恵真監督の劇場デビューとなる『マイスモールランド』で詳しく描かれています。去る2月のベルリン国際映画祭のジェネレーション部門に出品され、アムネスティ国際映画賞のスペシャル・メンションとなった今作は、埼玉県を舞台に、在日クルド人の一家を描いたもの。難民申請が不認定となり、数々の障壁とぶつかることになった女子高生サーリャの日常と、同じアルバイトで知り合った聡太との瑞々しい恋を描いた作品です。脚本、監督を手掛けた川和田監督と、サーリャを演じた嵐莉菜さんに話を伺いました。

女子高生サーリャの目を通して描く、日本のクルド人難民の現実『マイスモールランド』【川和田恵真監督×嵐莉菜さんインタビュー】_b

(右) 監督・脚本/川和田恵真(Emma Kawawada)
1991年生まれ、千葉県出身。イギリス人の父親と日本人の母親を持つ。早稲田大学在学中に制作した映画『circle』が、東京学生映画祭で準グランプリを受賞。2014年に是枝裕和監督、西川美和監督たちが主宰する映像集団「分福」に所属。今作が商業長編映画デビューとなる。2018年の第23回釜山国際映画祭「ASIAN PROJECT MARKET (APM)」で、アルテ国際賞(ARTE International Prize)を受賞。
(左) 嵐 莉菜(Lina Arashi)
2004年生まれ、埼玉県出身。「ミスiD2020」でグランプリ&ViVi賞のW受賞。2020年よりViViで専属モデルとして活躍中。日本とドイツにルーツを持つ母親とイラン、イラク、ロシアのミックスで日本国籍を取得している父親がいる。映画初出演にして初主演となった今作での瑞々しい演技で注目を集めている。

自分と同じ年齢のクルド人の若い女性が、自分の居場所を守るために大きな銃を持っていた驚き。

女子高生サーリャの目を通して描く、日本のクルド人難民の現実『マイスモールランド』【川和田恵真監督×嵐莉菜さんインタビュー】_c
女子高生サーリャの目を通して描く、日本のクルド人難民の現実『マイスモールランド』【川和田恵真監督×嵐莉菜さんインタビュー】_d
『マイスモールランド』が劇場デビュー作となった川和田恵真監督。

──川和田監督が『マイスモールランド』でフォーカスしたクルド人は国を持たない世界最大の民族と言われ、現在はトルコ、イラク、イラン、シリア、アルメニアの5ヵ国に暮らしていると言います。監督がクルド人の人に興味を持ったのは、IS(イスラミックステート)と戦う若い女性兵士の写真を見たからだと伺いましたが、それは2018年制作のフランス映画『バハールの涙』のことですか?

川和田「『バハールの涙』の主人公たちと同じように、若い女性が銃を持って戦っている写真を見たのが、クルド人への関心を持った最初です。『バハールの涙』はイラクでのISによるヤズディ教徒への迫害を題材にしたものでしたが、私が見た写真は、シリアのクルド人防衛のために組織された武装部隊であるクルド人民防衛隊(YPG)のゲリラ組織に入って戦っている女性の写真でした。彼女は自分の居場所を守るために、自分よりも大きな銃を持っていた。自分の年齢と変わらない女性が戦っているという状況に驚きましたし、自分を守ってくれる国がないという状況にも興味を持ちました」

──企画が通るのは大変だったと思います。川和田監督は是枝裕和監督や西川美和監督たちによる映像制作者集団「分福」に所属されていますが、プレゼンを勝ち抜いた企画ですか?

川和田「分福の中で定期的に企画会議があって、そこに提出したんです。そのときは、ドキュメンタリーとフィクションの両方の企画を提出し、実際、日本で暮らしている在留クルド人の人に会いに行って、取材を重ねますとも伝えました。是枝監督に「これは今描くべきだ」と背中を押してもらって、企画を立ち上げたのが2017年になります。

そのとき既に、『東京クルド』(2021)で、日向史有さんが埼玉県、川口に暮らすクルド人のドキュメンタリーの撮影に取り組まれていて、共通の知り合いがいたので、日向監督に会いに行って、お話を伺ったりしました」

──私も昨年、『東京クルド』を見て、今のところ、日本で暮らすクルド人の方で難民申請を認められた人がほぼいないという現実に驚きました。入管の収容を一旦解除される「仮放免許可書」を持つものの非正規滞在者で、住民票もなく、 自由に移動することも、働くこともできないという制限のある生活を強いられている現状が記録されたドキュメンタリーでしたが、『マイスモールランド』も同じ状況が展開します。『東京クルド』は20代の二人の若い青年を被写体として追っていましたが、川和田監督は最初から女子高生を主人公にしようと?

川和田「最初からというよりは、取材をしていく中で、自分が一番共感したのがクルドの少女だったというのが大きかったです。クルドの男性たちは、建物の解体の仕事をしていたり、それが自分の希望とする職種ではないかもしれないけれど、それでも仕事に辿り着いていた。でも、クルドの女性たちは仕事にすら辿り着くことが難しい。どんなに頑張って学校を出ても、未来が見えない。凄く不安の中にいるということが、主人公にした大きな要素でした」