長髪野球部の増加と「丸刈り」のメリット

今夏の甲子園では、慶應義塾(神奈川)の躍進とともに、「非丸刈り頭」にも注目が集まりました。野球部の規則内容にも徐々に変化の兆しがあるようですが、そもそも強豪校にはどんな規則があるのでしょうか。

2023年の夏の甲子園で旋風を巻き起こした慶應義塾(神奈川)ナイン
2023年の夏の甲子園で旋風を巻き起こした慶應義塾(神奈川)ナイン

▼野球部の規則内容(複数回答可)
髪型  76.1%
挨拶  63.0%
学業  56.5%
言葉づかい 54.3%
携帯電話  45.7%
上下関係  32.6%
男女交際  19.6%
その他  4.3%

データを見ると、試合の結果だけを求めるのではなく、髪型などの身だしなみや挨拶、言葉づかいといった人として大切な人間教育を行なっていることがうかがえます。さらに高校生の本分である学業においても、疎かにならないように指導していると考えられます。

たとえ甲子園に出場できたとしても、卒業後に野球を職業として生活できる人間などほんのひと握り。野球部での活動を通して、社会貢献できる人材を育成しているとも言えます。

野球部員といえば、以前までは丸刈り頭が定番でしたが、最近は時代の流れで、髪を伸ばしてもいい野球部が劇的に増えました。

とはいえ、今までも「非丸刈り」の野球部がなかったわけではありません。今夏の甲子園にも出場している慶應義塾のように「非丸刈り」であることにプライドを持ち、「丸刈りのチームには負けない」と闘志を燃やすチームもありました。なお、今夏の甲子園ベスト8には、慶應義塾、花巻東(岩手)、土浦日大(茨城)と3校の非丸刈り校が勝ち上がりました。

最近の「脱丸刈り」の風潮を見ていると、「慶應のような非丸刈りの骨のあるチームが増えた」というよりは、「みんながやってるからウチもそうしよう」という連鎖反応のような気がしてなりません。いずれにしても、脱丸刈りをきっかけに「野球をやろう」と決める子が増えれば野球界にとって歓迎すべきことです。

一方で、丸刈りを貫くチームもあります。チームによって理念が異なり、人それぞれに価値観がありますから、「どちらがいい・悪い」という答えは出ません。

丸刈りをするメリットも十分に考えられます。まずはコスト面。寮で生活する部員が多い場合、バリカンさえあれば全員の散髪代が浮きます。頭部についた汚れ、雑菌をきれいに洗い流せるため、衛生的にもいいでしょう。

また、土・日曜日に練習試合が入る野球部は、大半の理髪店と同じく月曜日が休みになることが多いという事情もあります。

野球は団体スポーツであり、協調性が求められます。丸刈り頭で統一することで、一体感を生み出す狙いがあるとも考えられます。若者から自由を奪い、我慢を強いているという考えもあるでしょうが、野球部員全員による丸刈りというのも無意味とは断定できません。ひとつの集団をまとめる手法として、これからも残り続けるのではないでしょうか。

取材・構成/大西基也 百武憲一 菊地高弘
写真/shutterstock 共同通信社

引用・参考文献
大西基也,百武憲一,岩井美樹(2018)高等学校硬式野球部の経営に関する研究-甲子園ベスト16経験のある硬式野球部を対象として-.国際武道大学研究紀要,34:21-27.

甲子園強豪高に共通するヒト・モノ・カネ…「監督は現任高で指導歴11年以上」「部員数は60~100人」「専用グラウンド、留学生あり」