日本企業が勝てる要素
テクノロジーを使った日本人の「遊び」が世界に広まった例としては、「絵文字(emoji)」があります。
日本の携帯電話「iモード」から生まれた絵文字は、カジュアルなコミュニケーションのために多くの人々に支持されています。2008年にはグーグルが日本の携帯電話の絵文字をUnicode(ユニコード)に加える計画を公表、世界中にemojiという言葉が普及するきっかけとなりました。
さらに遡れば、家庭用ゲーム機でも、任天堂のファミコンが世界を席巻しました。アメリカのアタリが大きなシェアを占めていた北米市場を、後発の任天堂が奪ったのです。「スーパーマリオブラザーズ」は世界的なコンテンツになりました。2023年に公開された、CGを駆使した映画も大人気です。
コンテンツやテクノロジーの活用でどれだけユーザーの心を動かせるか、という勝負においては、日本企業が勝てる要素があります。
生成AIにおいても、日本企業は技術的な優位性においては現状で負けていますが、独自のコンテンツを活用したビジネスであれば、チャンスをつかめる可能性がまだあるはずです。
極端な話、プログラミングやエンジニアリングの専門知識がない中学生であっても、生成AIが専門性を補完してくれることで、ユニークなサービスを生み出すことが可能かもしれません。
スタートアップにもチャンスがあります。大企業は目をつけないようなニッチな領域を複数見つけて生成AIを活用し、サービスを拡大・統合させながらコングロマリットになっていく、というルートもあるはずです。
画像生成AIの活用に日本企業の勝機がある
世界的に見て、日本企業に残されている生成AIの独自のビジネスチャンスは、対話型AIだけではなく、画像や音楽など、非言語のジャンルにもあると個人的には思っています。
日本語がマイナー言語ゆえの不利さは前述した通りですが、画像などであれば、一点突破のチャンスがあります。
ZOZOは、2022年12月にリアル店舗をオープンさせ、同社独自のAI「niaulab AI by ZOZO」とプロのスタイリストが顧客に合ったコーディネートを無料で提案するサービスを開始しました。AIと人間のプロが知見をかけ合わせてファッションを提案するというこの取り組みも先進的と言えるでしょう。
一方で、チャンスが渦巻くマーケットにはリスクも必ず潜んでいます。
例えば、自社サービスで使いたい生成AIを開発しているスタートアップに出資をしようとしても、現在の生成AIの投資市場は待機資金が積み上がっている状態で、バブルになる可能性もあります。
また、過去に日本企業がAI分野で世界的ないい投資をできた事例は、残念ながらほぼありません。日本企業が周回遅れである自覚を持ち、投資でババを引かされないように警戒する必要もあるでしょう。
文/山本康正 写真/shutterstock
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