「40歳くらいで売りをやめたら、さっさと死にたい」──自分への仕送りのために兄は町内会費を横領、自宅の売却話まで。家族と絶縁状態になった歌舞伎町に立つ32歳の街娼の物語
「公園の方が稼げるよ」仲間からのその一言で、2018年夏から“街娼”となった女性・未華子(32歳・仮名)。中学1年で家出し、親友の実家に住みつきながら、テレクラ売春やソープ、出会いカフェなどで売春を重ねてきた彼女が、なぜ新宿歌舞伎町・大久保公園に立つようになったのか――。歌舞伎町の路上売春の最前線を追いかけたノンフィクション『ルポ 新宿歌舞伎町 路上売春』(鉄人社)より、一部抜粋、再構成してお届けする。(全3回の2回目/♯1、♯3を読む)
ルポ 新宿歌舞伎町 路上売春 ♯2
カネをせびり過ぎて家族から縁を切られた
自分に余裕があるならまだしも、一般的にはたとえ兄弟のためとはいえそこまで飛躍はしない。なぜ、兄は犯罪までしてカネを作ったのか。
「なんでですかね。母みたいに兄も少しは悪いって気持ちがあったんですかね」
未華子は贖罪の気持ちがあったのではと持論を述べた。
ともかく、実家売却の話を最後に、「もう縁を切る」という通告と同時に母と兄に着信拒否された未華子は、もう家族と連絡を取れる状況にない。自業自得だが天涯孤独の状況にある。
それでも未華子から謝罪の言葉が聞かれることはついになかった。どころか、「母も兄も、別に死んだって何とも思わないです。葬式に行く気もないですし。でも、遺産はもらいます」と話していた。つまり未華子の路上売春は、憎き家族に刃を向け続ける延長線上にあると考えるのが自然なのだ。
だが、すべては母親への愛情の裏返しに違いない。死ぬにしても、人目がつく場所での自殺を望み、誰かに知らせたいと語るその誰かは、母親だと僕は考える。
事実、母親のことを語る未華子は、いつもより饒舌になったことをよく覚えている。
文/高木瑞穂
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#1
#3
2023年7月26日
1,760円
256ページ
ISBN:978-4865372601
ここ最近、新宿歌舞伎町のハイジア・大久保公園外周、通称「交縁」(こうえん)には、若い日本人女性の立ちんぼが急増している。その様子が動画サイトにアップされ、多くのギャラリーが集まり、現地でトラブルが起きるなど、ちょっとした社会現象にもなっている。
彼女たちはなぜ路上に立つのか。他に選択肢はなかったのか。SNS売春が全盛のこの時代に、わざわざ路上で客を引く以上、そこには彼女たちなりの事情が存在するに違いない。
「まだ死ねないからここにいるの」
一人の立ちんぼが力なく笑った。
本書では、ベストセラーノンフィクション『売春島』の著者・高木瑞穂が、「交縁」の立ちんぼに約1年の密着取材を敢行。路上売春の“現在地”をあぶり出すとともに、彼女たちそれぞれの「事情」と「深い闇」を追った――。