もち、米類、茶飲料…インフレ下でも「和の食品」が軒並み値下がりする中、梅干しの値段だけが1.5倍に上昇している理由
長びく物価高にあっても、過去10年間で見て、限られた品目ではあるが、値下がりしているものもある。それは茶飲料、もち、米類といった「和の食品」だ。それ自体も不思議だが、さらに意外なことに値上がりの上位ランキングに、「梅干し」が入っているのはなぜか? 元日銀で第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生氏の『インフレ課税と闘う!』より一部を抜粋、編集してお届けする。
インフレ課税と闘う!#13
梅ぼしの値上がりの背景に「開発輸入」
和の食材が軒並み値下がりしている中で、意外なことに値上がりの上位ランキングに、「梅干し」という品目があることに目が留まる。梅干しは、10年間で1・46倍にまで値段が上がっている。生鮮食品以外で見たときは、1位が焼き魚(76・3%)であり、次いで梅干しが2位だ。
なぜ、梅干しが値上がりしているのかという理由を調べると、開発輸入という構造が浮かび上がってくる。日本の商社や食品メーカーは、1990年代から円高環境を利用して、様々な食品(野菜、果実、水産物、冷凍食品、食肉加工品など)を海外で企画・製造して、日本国内に輸入してきた。
かつて、1990年代の円高期に価格競争に苦戦する国内事業者から「海外産の安値輸入品に押されて」という嘆きをよく聞いたものだ。この中には、海外メーカーの製品ではなく、国内メーカーが海外で企画した開発輸入品も多く含まれていた。
梅干しは、もともとは1960年代から1990年代までは台湾産が輸入されてきた。それが1990年代になって、当時、生産コストが格安だった中国へと生産拠点をシフトさせて、日本企業が開発輸入を活発に行った。中国では、甘みをつけて乾燥させた「梅干し」が昔からお菓子として普及していた。ご飯のお供として日本人が食べるのとは異なる消費スタイルだ。
それでも、日本企業は中国の「梅干し」業者を利用して、日本に逆輸入をしてきた。昨今は、梅干しのシェアの50%は輸入品だとされる。2012年以降の円安局面は、一転、こうした梅干しなどの開発輸入品の仕入価格を今度は割高にしたのである。
かつては、アジアで作って日本に逆輸入してくることが、安値を武器にシェアを広げる有効な戦略となったのに、皮肉なことに、2012年以降はこの戦略が逆回転してしまっている。現在、日本の消費者が、割高になっても輸入品を買わざるを得ない理由は、円高期に供給元が国内から海外に切り替わったことが大きい。
文/熊野英生 写真/shutterstock
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もはやインフレは止まらない!
これからの日本経済、私たちの生活はどうなる?
コロナ禍やウクライナ戦争を経て、世界経済の循環は滞り、エネルギー価格などが高騰した結果、世界中でインフレが日常化している。2022年からアメリカでは、8%を超えるインフレが続き、米国の0%だった金利は5%を超えるまでになろうとしている。世界経済のフェーズが完全に変わった!
30年以上、ずっとデフレが続いた日本も例外ではなく、ここ数年来、上昇してきた土地やマンションなどの不動産ばかりでなく、石油や天然ガスなどのエネルギー価格が高騰したため、まずは電気料金が上がった。さらに円安でも打撃を受け、輸入食品ばかりではく、今や日常の生鮮食品などの物価がぐんぐん上がりだした。2021年までのデフレモードはすっかり変わり、あらゆるものが値上げされ、家計にダメージが直撃した。
これからは、「物価は上昇するもの」というインフレ前提で、家計をやりくりし、財産も守っていかなければならない。一方、物価の上昇ほどには、給与所得は上がらず、しかもインフレからは逃れられないことから、これはまさに「インフレ課税」とも言えるだろう。
昨今の円安は、海外シフトを進めてきた日本の企業にとってもはや有利とは言えず、エネルギーや食料品の輸入が多い日本にとっては、ダメージの方が大きい。日本の経済力も、かつてGDPが世界2位であったことが夢のようで、衰退の方向に向かっている。日銀の総裁も植田総裁に変わったが、この金融緩和状況はしばらく続きそうだと言われている。
しかし日本経済が、大きな転換点に直面していることは疑いもない。国家破綻などありえないと言われてきたが、果たして本当にそうなのか?
これから日本経済はどう変わっていくのか? そんななかで、私たちはどのように働き、財産を築いていくべきなのか?
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