人類が直面しているたった2つの問題は、「地球温暖化」と「アメリカ」

私はいま、よくこう言います。いまの人類が直面している問題は二つある。地球温暖化と、アメリカだと。

この戦争がどういう形で終わるのか、はたして終わりがあるのかわかりません。その理由としては、不確実性ですね。

ロシアやアメリカの軍需生産力というのが不確実ななかで、どう終わるのかということは、なかなか見えづらいということはあります。

ただ、さまざまな終わり方の可能性を考えていくと、アメリカ社会が貧困化などの問題で後退のスパイラルにますます入り込んでいくことによる「アメリカの崩壊」もあり得るのではないかと考えています。

フランスのジャーナリストは恐らくロシアのほうが50%くらいの確率で崩壊すると見ているでしょう。でも、私は5%ほどではありますが、アメリカが崩壊することもあると見ています。

そして、イギリスもおそらくこれから後退し、崩壊を迎えるのではないかと。その可能性があるというふうに思います。

池上 実は一番の危機は、アメリカの危機ではないのか。みんなロシアが危機だ危機だと、日本ではいろんな人が言っているんですけど、実はアメリカが大変な危機的な状況なんだということですね。

確かに、アメリカ国内での分断ということは、明らかに進んでいるように見えます。共和党自身の内部が分裂をしてしまって、下院の議長が15回も投票しなければ決まらないような状態になっているときに、トランプさんが「選挙に出るんだ」と言ってしゃしゃり出てくる。だけど、共和党のなかでも、そのトランプさんについていくという人ばかりではない。

一方で、じゃあバイデン大統領は大丈夫なのかというと、機密文書の問題も出てきたり、高齢であったりということで、本当にアメリカ自身が迷走している。そういうような、アメリカ自身が危機的な状況にあるんだっていうことを、あらためて考えなければいけないということだろうと思いますね。

そして、実はロシアがこの戦争の前から、とにかく世界においてアメリカが唯一の大国であってはいけない、多様な世界でなければいけないと言っていたんです。今回のウクライナ戦争をきっかけに、結果的に世界がさまざまに分断し、多様になっていくということになると、それって、ロシアの世界戦略が成功するということになってしまうかもしれませんよね。

ウクライナでは大変な苦戦をしている。つい私たちはそこだけを見てしまうんだけど、もっと広い、長いスパンで見ると、実はロシアの世界戦略が成功しつつあるのかもしれないということですね。

なぜ、ウクライナ戦争でロシアが勝者になる可能性があるのか「この争いは単なる軍事的な衝突ではなく、価値観の戦争でもあります」グローバルサウスの国々は“むしろロシアに近い”と言われるワケ_3

トッド ただ、この分断した世界というものが、不安定な世界だ、とも限らないんですね。

分断した世界が不安定だと言い切ってしまうのは、間違いだというふうに思います。人口的にそこでは停滞した世界があって、でもある程度、平和的で安定した社会があるんじゃないかと、私は想像するんですね。

一方で、たとえばアメリカが1国の覇権国家として存在し続けるといった世界のほうがむしろ危うくて、不安定化を招くのではないかというふうに私は思います。分断した世界というものは、不安定ではない可能性もあるわけです。

池上 なるほど。メディアが一方的に伝えているなかで、「ちょっと待てよ」「いやいや、問われているのは実はアメリカなんだ」という、オルタナティブな、多様なものの見方も提示しつつ、冷静な視点でこの戦争を見ていかなければいけないのかなということを、トッドさんから教わっている気がしています。

ところで、では、この戦争はどういう形で終わるんでしょうか。とてもこの戦争の終わり方が私は見えないんですけど、どういう形で広がるのか、あるいは終わるとすればこういう形だという点については、どのようにお考えですか。