他国に劣る幹部自衛官の知的・学術的水準

防大の4年と幹部候補生学校の1年、計5年の課程を修めた自衛官は、大多数が20歳代前半の若者ながら、ただちに尉官に任官し、国際基準では「将校」とみなされる。

つまり自衛隊は、一般の大学の学部4年間相当と、大学院修士課程2年間のうち1年間相当の高等教育を修めれば、いきなり将校クラスに任官するという、メリット・システム(閉鎖型任用制)を採用している。

これは、おおむね20代後半に係長、30代前半に課長補佐になる、霞が関のキャリア官僚の世界と比べてさえ、劇的といえるメリット・システムだ。もちろん、このシステム自体は、日本の旧軍や他国の軍隊を参照して設計されているので、驚くべき点はない。

浜田靖一防衛大臣 写真:代表撮影/ロイター/アフロ
浜田靖一防衛大臣 写真:代表撮影/ロイター/アフロ

ここで問題なのは、防大の(たった4年間の課程を担う)教育現場に、自衛隊の劇的なメリット・システムを支える責任と負荷が一身にかかっていることである。

しかしながら、防大受験者数は2010年代半ば以降、著しい減少傾向にあり、また中退者数、任官辞退者数、幹部候補生学校入校辞退者数などは、全体として増加傾向にある。自衛隊が優秀な幹部自衛官の確保・育成に苦労していることは、数字上からも事実といわざるをえない。

そして残念ながら、等松教授の告発文書にある「思考停止の中堅幹部が年々増えている」という評価は、筆者のもとに集まってくる情報とも符合している。

筆者自身、幾人もの幹部自衛官と長時間、腹を割って話したことはあり、職務において誠実で高潔な現役幹部自衛官が大勢いることは知っている。だが、筆者の研究仲間や知人で、外国軍将校と幹部自衛官の双方と日常的に交流の機会をもつ何人もの研究者が、異口同音に指摘するのは、幹部自衛官の知的・学術的水準が相対的にみて他国の将校クラスよりも心もとないという評価だ。

北東アジアでは今後当分の間、朝鮮戦争以来の不安定な安全保障環境が続き、自衛隊は創設以来最大のプレゼンスを発揮することが求められる。防大の教育環境の抜本的な改善は、自衛隊・防衛省のみの問題にとどまらず、国家的・国民的な課題なのである。