私が住んでみたいと思える九龍を描きたかった(眉月じゅん)

——眉月先生は、いつ頃から九龍に関心があったんですか?

眉月 中学生くらいの頃から興味があって、写真集を買ったりしていました。だから、いつか九龍を舞台にした漫画を描こうというのは、ずっと前から考えていて。「やるなら今だな!」というタイミングで、『九龍ジェネリックロマンス』の連載をはじめた感じですね。

サンカクヘッド 眉月先生の描く九龍って、すごくオシャレですよね。僕は九龍っていうと、怖い場所だっていうイメージがあったんですけど。

大熊 (新宿)歌舞伎町をもっとダーティーにしたみたいな……。

眉月 大熊さんにも最初、「きれい過ぎませんか?」と聞かれましたよね。けれどそこはフィクションというか。何だろう、「私もここに住んでみたい!」と思えるような九龍を描きたかったんですよね。それに結局は、同じ人間じゃないですか。外から見ると怖そうでも意外と自分達と同じ悩みを抱えていたりもすると思うんです。だから、私もサンカクさんの団地ではないですけれど、馴染みのある場所として九龍を描いています。

【サンカクヘッド×眉月じゅん対談 後編】団地と九龍から考える、今私たちが描くべき漫画_b
『九龍ジェネリックロマンス』第1話より ©眉月じゅん/集英社

サンカクヘッド 普通はそのままの九龍を描こうとしちゃうと思うんですよ。けど、眉月さんはむしろ作品を通じて、九龍のイメージを書き換えようとしている。そこがすごいと思うし、大切な部分だなと感じます。

——一方で、『九龍ジェネリックロマンス』の九龍のなかでは、ときどき世界が反転したかのように、理不尽で不気味なできごとが起きたりもします。

眉月 現実でも、そういう瞬間ってありませんか? 自分をあんなに理解してくれていたはずの人たちが、全然知らない人に見えてくるような瞬間が。みんながニコニコしていればいるほど、うすら寒くなってくる。そういう「何か」に触れてしまったとき、そこにいる人たちも、自分がいるその場所も、何もかも信頼できなくなって自分の体温がギュッと下がっていくのがわかるんですよ。そういう感覚が、作品にも反映されているのかもしれません。

【サンカクヘッド×眉月じゅん対談 後編】団地と九龍から考える、今私たちが描くべき漫画_c
『九龍ジェネリックロマンス』第15話より ©眉月じゅん/集英社