地方創生の要は地方の教育機関の充実にある
――地方の名門校が衰退していくと日本社会はどうなっていくと思いますか。
小林 ダメになっていくでしょうね。地方創生の要は教育機関の整備にあります。そのために旧制一中は歴史と伝統、優秀な卒業生のネットワークは欠かせません。加えて地元の国公私立大学を拡充することで若年層が離れにくくなる。地方の大学でも人気があれば全国区の大学になって他の地域から若い人が集まってきます。そうなれば地域が活性化します。地元の名門校の存在感がなくなっていくということは地元の人材輩出力が衰えるということですから、地域から元気がなくなってしまう。地域が衰えていけば、地方から多様な人材を集めてきた都市部のダイナミズムも失われるでしょう。もちろん、過疎化が進んでいる県では厳しい状況ではあります。そこは国が都市部だけでなく地域の教育機関を金銭的に手厚く保護して、その地域で働き、学べるようにすることが必要です。
――地方の名門校は、何をめざせばいいと思いますか。必ずしも私立の中高一貫校のようになることが目標ではないと思いますが。
小林 予備校化してしまうのは違うと思っています。そうではなくて、ひとつは課外活動でインターハイや全国大会に出る、地域と密着した活動をする、生徒がメディアで取り上げられるようなことをやる、といったかたちで一中の生徒が発信力を持つことによって「やっぱりここの生徒はすごいね」「進学だけじゃないんだね」と地元に評価されることに力を入れていくことです。たとえば浦和高校はラグビーとクイズ、静岡高校は野球が強かった。京都の洛北高校は東京五輪2020に3人代表を出している。一中は学力、スポーツ面での神童、天才を推薦枠を広げ優先的に受け入れてもいい。
もうひとつは卒業したOBのがんばりにもかかっています。有名人が出ると知名度が高まり、卒業生や在校生の帰属意識や愛校心が高まります。先日、北京オリンピック出場者の出身校を調べていたら苫小牧東高校という元旧制中学からの伝統校が女子アイスホッケーの選手を6人も輩出していました。この高校はノーベル賞受賞者の鈴木章・北大名誉教授も輩出しています。これは地元からすると誇らしいですよね。
単に「●●大学合格者が○人」ではなく「地元から尊敬される」ことを目指していくのが、その地域にとって意義ある方向だと思います。
取材・文 飯田一史