日本のお笑いに政治ネタが少ない理由は?

——お笑いを教える講師という立場から見て、いわゆる「人を傷つけない笑い」についてはどう受け止めていますか?

ボーダーをどこに置くべきか、というのが難しいですね。差別的な言葉に限らず、たとえばバナナで滑って転ぶという古典的な笑いがありますけど、あれはすぐに起き上がるから笑いが起きるのであって、もし転んだまま起き上がらなかったとしたら、笑いどころか悲鳴が上がります。つまり、同じ現象であっても、そのあとの展開によっては悲劇にも喜劇にもなる。そこを見極めるのが大事なんじゃないかと思います。

——もうひとつ、時の政権に限らず、政治や政治家をネタにするような笑いが、他国のコメディアンと比べて日本は圧倒的に少ないことについては?

たしかに海外では政治ネタは笑いの鉄板というか、基本にありますよね。それが日本では極端に少ないのは、やっぱりこの国が村社会だからだと思います。個人の生き方も考え方も独立している国では、政治ネタをやったところで、それぞれの個人が個人的なリアクションをするだけ。笑う人もいれば、笑わない人もいる。賛成だろうが反対だろうが、一人ひとりが個人の考えに基づいて反応する。
でも日本では、個人よりも血縁とか地縁を大事にするから、いろいろな関係性の中で、まわりの顔色をうかがっての反応になりますよね。基本的に「日本は平和」という感覚があるうちはそれほど変わらない気がします。

80年代にはコント・レオナルドが、選挙のときに首相と握手したという庶民がアポなしで官邸に突然やって来るという風刺コントをやっていましたけど、今だとウーマンラッシュアワーの村本くらい。

ウーマンラッシュアワーの村本大輔 写真/U-YA
ウーマンラッシュアワーの村本大輔 写真/U-YA

ウーマンラッシュアワーは劇場でも政治家や原発のネタをやっていますが、15分の漫才で10回くらい拍手が起きますよ。だから、政治ネタがウケないということではないと思うんですけどね。