バイデンの「老人力」

手嶋 少し前のアメリカの資本主義は、繊維産業や鉄鋼産業が消滅しても、システムの構築力や情報力は群を抜いており、世界の首座は揺るがないと考えていた節がありました。しかし、いまや尖端的な半導体産業を国内に擁していなければ、アメリカの覇権は立ちゆかないと考えるようになりました。〝半導体チップ恐るべし〟ですね。

台湾は世界の半導体受託製造分野で世界の60%以上のシェアを占める
台湾は世界の半導体受託製造分野で世界の60%以上のシェアを占める

佐藤 アメリカや中国にとっても、半導体王国となった台湾は〝核心的利益〟です。それだけにアメリカは、安定した米中関係を時に犠牲にしても、新たな核心的利益となった台湾という半導体王国を握っておくことが肝要と考えている節もあります。このように戦略環境が変化するなか、アメリカからすれば、半世紀も前の〝ゲームのルール〟に囚われすぎるのもいかがなものか、そう思い始めているのでしょう。

手嶋 確かに尖端的な半導体産業は、新しい〝ゲームのルール〟を左右するほどに重要だということですね。

佐藤 バイデンは持ち前の「老人力」を駆使しつつ、台湾条項の見直しに敢えて踏み込んだようにも思います。2021年3月に、テレビ番組で司会者から、「プーチン氏は殺人者だと思うか?」と問われて、バイデン大統領はしばし考えてから「そう思う」と答えて、ロシアが駐米大使を召還する騒ぎに発展しました。

手嶋 あのときも、あのバイデンだからと、あの程度で収まった面もあると思います。〝老人力〟侮るべからず。

佐藤 前任者のトランプは、ディールに拘り過ぎましたが、バイデンは、ロシアに厳しく出るぞと外交の幅を広げようとしたわけです。こういう局面では、〝老人力〟はまことに使い出があります。