幼稚園で全元素を暗記

幼少期の都央さんは、様々なものに興味を持った。漢字は3歳ごろから路線図で読めるようになった。初めて書いた字は「品川」だった。点字を覚え、フォントやピクトグラム(絵文字)に興味を持ち、歯車のおもちゃで遊ぶのも大好きだった。大人向けの機械式時計の本が愛読書だった。

どうやって歯車がかみ合って動くのか、仕組みがわかるのが大好きだった。

幼稚園のころには分子に興味を持ち、すべての元素を英語と日本語で暗記した。「世の中のすべてのものは元素でできているので、こういうふうに結合することによってこういうものが生まれるみたいなことがわかるのがとても楽しかった」と都央さんは記憶している。純子さんに元素のクイズを出してくるが、難しくて答えられなかったという。幼稚園のころからパソコンに触れていた都央さんは、元素クイズを自動で出すゲームのプログラムを自作して遊んだ。

台風が近づいているというニュースを見ると「台風はどこで発生するんだろう」。雨が降ると、「降ってきた水はどこへ行くんだろう」と、疑問が次々と湧く。純子さんは「なんで?」といつも都央さんに問いかけられた。大人でも答えられないようなたくさんの疑問。純子さんは「とにかく常になんで、なんでと聞かれて、ちょっと私がパンクしそうになったので、ノートに書いて自分で調べてみてと伝えました。私の逃げ場のようにつくったノートです」。そう言って見せてくれた当時のノートには、都央さんの頭に浮かんだ疑問が並んでいた。

「なぜタイヤは黒い?黒じゃなくてもいい?」

「どうして赤い火より青い火のほうが熱い?」

「なぜ日本には大統領がいないの?」

そして、図鑑などで調べた自分なりの答えが書き込まれていた。

機械式時計の仕組みを書いた本を熟読していた3歳の都央さん〈写真/母・純子さん提供〉
機械式時計の仕組みを書いた本を熟読していた3歳の都央さん〈写真/母・純子さん提供〉

集団生活の中のストレス、身体に現れた変調

好奇心が旺盛な都央さんに体調の変化が現れたのも、幼稚園のころだった。

日曜日の深夜に嘔吐(おうと)繰り返した。救急車で運ばれたこともある。だが、疑われた感染症ではなかった。

その後も日曜日になると吐くことが続き、「心理的なもの」と診断を受けた。幼稚園での集団生活がストレスになっているようだった。夜にうなされることもあり、ドッジボールがある日は体調が悪そうに見えた。

後から、ボールが無秩序に動くルールが嫌で、体が拒否反応を起こしているとわかった。
都央さんは「どんなルールでみんなが動いているかがわからなくて、怖いな、嫌だなっていう気持ちが強くなったんです。みんながランダムに動いて、ボールが自分めがけて飛んでくるのも怖かった」という記憶がある。ドッジボールがある時は、トイレに逃げ込んだ時もあった。