将来は日本でもムスリムが増加

『西洋の自死』の主張と日本との関係についてどう考えればよいのだろうか。

まず多民族化が進むヨーロッパではムスリム以外の移住者はまったくといってよいほど問題視していない。問題になるのは一部のムスリムと、民主主義と相いれない極端な思想を持った集団だろう。民族の違いではなく基本思想の違いへの懸念と言える。

筆者の知るヨーロッパの学者や知識人の多くは、ヨーロッパ各国はEUを推進してきたように、情報、物流、人の流れを促進し、それによって経済は発展し、豊かな社会がもたらされると考えている。欧州各国はムスリムについてその取り組みに苦労しながらも、草の根レベルでは自治体やNPOが彼らの社会への包摂のために、言語教育、文化習慣の教育、さらに子どもの教育などにも対応した、「統合政策」と呼ばれる政策が実施されている。

ヨーロッパ各国では移民の割合は人口の10%をはるかに超えて、ムスリムの増加が続いている。それを今更、逆行させることは現実的には不可能といってよいだろう。その中で、『西洋の自死』が指摘するような社会の分裂が大きな課題とならないように、各国政府および自治体、市民社会が取り組んでいるという状況だろう。

なぜヨーロッパはムスリムの増加で深刻な混乱に陥ったのか…欧州の価値観よりムスリムコミュニティーを重視する本当のわけ_3

日本人はヨーロッパに対して白人社会というイメージを描きがちだ。しかし、現実にはワールドカップで活躍するヨーロッパのサッカー選手を見れば、ヨーロッパはすでに世界から多様な人びとを受入れている。そしてそれをヨーロッパ人の大多数が「自死」と考えているだろうか。とてもそうは思えない。

東京五輪・パラリンピックでは「多様性と調和」が大会理念とされたが、次期のオリンピック開催国のフランスのスポーツ担当相は「東京から多様性のバトンを受け取った」と述べ、理念に共感する姿勢を示している。

では、日本でのリスクはどうだろうか。

日本では、外国人の犯罪率は低く、またヨーロッパで最大の問題となっているムスリムも少なくて問題となっていない。しかし、将来は日本でもムスリムが増加していくだろう。