日本は「中立国」なのか

中国の台湾侵攻は国対国の戦争であるとの立場に立つのなら、日本政府は戦時国際法により中立国の義務を果たすことになる。戦時国際法とは交戦当事国とそれ以外の第三国との関係を定める国際法である。中立国は戦争に参加してはならず、また交戦当事国のいずれにも援助してはならず、平等に接する義務を負う。

義務とは次の3項である。
  
回避義務:中立国は直接、間接を問わず交戦当事国に援助は行わない
防止義務:中立国は自国の領域を交戦当事国に利用させない
黙認義務:中立国は交戦当事国が行う戦争遂行過程において不利益を被っても黙認する
  

第二次世界大戦時、永世中立国のスイスは自国領空を侵犯した航空機は連合軍、枢軸軍を問わず撃墜した。日本が台湾の艦船や航空機を攻撃することは考えられず、領空侵犯があっても最寄りの飛行場に強制着陸させることになるであろう。艦船についても、人道的な措置として寄港拒否はしない。

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中国は、一つの中国の原則のもと、日本に逃避した艦艇や航空機は自国の国有財産であるとして返還要求すると予想される。日本政府が中国の要求を呑み、返還することは考えられない。そんなことをすればアメリカはもとより多くの諸国の強い反発を招くことになる。

日本政府が返還を拒否すれば、中国は「台湾問題は内政問題である。日本の対応は中立国の義務ではなく、中国艦艇の拿捕及び航空機の占有である」として激しく反発するだろう。

対抗措置として、尖閣諸島の確保を目指して部隊を派遣するか、日本へ避難した艦船・航空機を精密誘導兵器によって攻撃する可能性がある。この場合、日本政府は武力攻撃事態に認定して自衛隊に防衛出動を命じ、自衛隊は直接中国軍と交戦することになる。
  
インド太平洋軍は、アメリカ政府の軍事介入の意思決定が迅速に行われることを前提にして台湾有事の全般作戦計画を立案し、日本との共同作戦計画を策定する。そして、台湾との共同作戦計画を策定するか、できなければ台湾軍の防衛構想を承知する必要がある。

インド太平洋軍の作戦目的は、中国の台湾占領意図を粉砕し、核戦争への拡大を抑止することである。在日米軍基地は重要な作戦基盤であり、日本の自衛隊の協力は作戦上、必要不可欠の要素となる。

#1『元陸将が暴露する中国の「台湾侵攻」完全シミュレーション【第1部】中国経済の崩壊、台湾は国連総会に参加申請…』はこちら

#2『元陸将が暴露する中国の「台湾侵攻」完全シミュレーション【第2部】台湾、過激派反政府デモで大混乱』はこちら

#3『元陸将が暴露する中国の「台湾侵攻」完全シミュレーション【第3部】反政府活動で混乱する台湾、中国が夜中に重要施設を攻撃』はこちら

『完全シミュレーション 台湾侵攻戦争』 (講談社+α新書)
山下裕貴
2023年4月19日
990円
216ページ
ISBN:978-4065319598
「問題は、侵攻のあるなしではない。それがいつになるかだ」
中国の台湾侵攻について、各国の軍事・外交専門家はそう話す。
中国の指導者・習近平はなにをきっかけに侵攻を決断するのか。
その際、まず、どのような準備に着手するのか。
アメリカ・台湾はその徴候を察知できるのか――。
元陸上自衛隊最高幹部が、台湾侵攻を完全にシミュレーションした!
陸上自衛隊の第三師団長、陸上幕僚副長、方面総監を務めた元陸将・山下裕貴氏は、沖縄勤務時代には与那国島への部隊配置も担当した。中国人民解放軍、米インド太平洋軍、そしてもちろん自衛隊の戦力を知り尽くす。戦地となる台湾周辺の地形も分析し、政府首脳も参加する机上演習(ウォーゲーム)のコーディネーターも務める、日本最高の専門家で、本書はいわば、「紙上ウォーゲーム」である。

中国と台湾を隔てる台湾海峡は、もっとも短いところで140キロもある。潮の流れが速く、冬場には強風が吹き、濃い霧が発生して、夏場には多くの台風が通過する、自然の要害である。
ロシアによるウクライナ侵略では、地続きの隣国にもかかわらず、弾薬や食料などの輸送(兵站)でロシア軍は非常な困難に直面し、苦戦のもっとも大きな原因となった。
中国は台湾に向け、数十万の大軍を波高い海峡を越えて送り込むことになる。上陸に成功しても、その後の武器・弾薬・燃料・食料・医薬品の輸送は困難をきわめる。
「台湾関係法」に基づき、「有事の場合は介入する」と明言しているアメリカも、中国の障害となる。アメリカ軍が動けば、集団的自衛権が発動され、同盟国の日本・自衛隊も支援に回る。
つまり、自衛隊ははじめて本格的な戦闘を経験することになる。
日米が参戦すれば、中国は台湾、アメリカ、日本の3ヵ国を敵に回し、交戦することを強いられる。
それでも、習近平総書記率いる中国は、「必勝」の戦略を練り上げ、侵攻に踏み切るだろう。
そうなったとき台湾はどこまで抵抗できるのか。
アメリカの来援は間に合うのか。
台湾からわずか110キロの位置にある与那国島は、台湾有事になれば必ず巻き込まれる。与那国島が、戦場になる可能性は高い――。
手に汗握る攻防、迫真の台湾上陸戦分析!
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