台湾有事は日本にどう波及するか
台湾有事は日本にどのような形で波及するのだろうか。
台湾と与那国島の海峡は約110キロしかなく、日本と台湾の位置関係はきわめて近い。東シナ海側から太平洋に出るためには、この海峡を含め、日本の南西諸島周辺を通過する必要がある。中国の軍事戦略上重要な第1列島線である(地図参照)。
さらに在日米軍基地は米軍の台湾支援の作戦基盤となっている。米軍が作戦行動を開始すれば、事態の推移により集団的自衛権を行使することになり、さらに事態が悪化すれば武力攻撃事態に発展していく。
想定される日本への波及する3つのシナリオ
日本への波及は次の3つのシナリオが想定される。
1・日本へ直接波及
2・米軍の行動に関連して波及
3・台湾の行動により波及
まず日本への直接波及である。
台湾侵攻の支作戦として考えられるのが、第1列島線に近づく日米艦隊の接近を阻止し中国海軍の太平洋への進出航路の安全確保を目的とした拠点確保である。
この場合は治安出動から武力攻撃事態が認定され、自衛隊が行動することが予想される。日本への直接波及(侵攻)はハイブリッド戦から開始されると予想される。
ハイブリッド戦とは、2014年に発生したウクライナ東部紛争でロシア軍が行った作戦である。〈破壊工作、情報操作など多様な非軍事手段や秘密裏に用いられる軍事手段を組み合わせ、外形上「武力攻撃」と明確には認定し難い方法で侵害行為を行うこと〉と防衛白書では解説している。
中国軍が、戦略上の要点である石垣島に侵攻することを想定すると、以下のような事態の進展が予想される。
第一段階は、日本本土及び沖縄本島から石垣島を分離することである。海底ケーブルの切断や大規模なサイバー攻撃を行い、同島と外部とのあらゆる通信やデータ送受信を遮断する。さらにサイバー攻撃によって新石垣空港の管制装置がダウンする。次いで作戦開始前に潜入した工作員によって石垣発電所を送電不能とし全島停電に陥らせる。
第二段階は、石垣島沖数十キロに遊弋するタンカーや貨物船からの電子戦攻撃である。警察や海上保安庁の使用する無線、一般の携帯電話に障害を発生させ通話できない状態とする。唯一警察用携帯電話のメール機能だけを残し、そこに偽メールを送信して警察官を誘き寄せる。警察官が集まったところで、仕掛けておいた爆弾を爆発させるのである。
第三段階は、偽装した民間航空機を新石垣空港に着陸させ、武装勢力「琉球独立団」などと偽って日本語の堪能な特殊部隊を送り込む(クリミア併合時のリトル・グリーン・メンに相当)。彼らが潜入工作員などと協力して、短期間に石垣市を占拠しその勢力下に置く。次に海上の貨物船に待機していた武装集団主力が装甲車両などとともに上陸し、陸上自衛隊を武装解除し侵攻基盤を確立する。
この一連の作戦行動は外形上どこの国による武力行使か確認することができない。サイバー攻撃も電子戦も見えない敵からの攻撃だからだ。
時間の経過とともに既成事実を積み上げていき、平和維持の名のもとに中国軍が進駐し、最終的には、中国政府が石垣島の独立を保障するということになるだろう。自動参戦の軍事同盟であるNATOと違い、日米安保条約はアメリカ政府の意思決定と連邦議会の承認が必要である。日米安保発動と米軍来援までにはかなりの時間がかかる。そのため当面は自衛隊単独で戦わなければならない。