「認知症=人生の終わり」ではない

いざ、認知症になった場合、最も大切な対策となるのが、「自分がやりたいと思っていることを可能な限りやること」です。

たとえば、認知症の代表的な症状のひとつが、「今いる場所がどこなのかわからない」「何月何日で何時かがわからない」など、自分の置かれた状況がよくわからなくなること。この症状は、「失見当識」と呼ばれます。

ただ、初期や中期の認知症であれば、「失見当識」が出たとしてもできるだけ自由な行動を心がけたほうが、本人の意欲や認知機能が衰えずに済みます。

しかし、その事実を知らないと、行動を控えようという意識が働いてしまいます。たとえば、失見当識が出ると道に迷いやすくなるため、ご自身は「ひとりで出かけるのは怖い」と思い、周囲の人も「散歩させるのは怖い」と感じるようになって、あまり外に出なくなってしまうのです。ただ、行動しなければしないほど意欲は失われるし、体の筋力も衰えてしまいます。

だからこそ、「失見当識」のような認知症の症状が出たとしても、むやみに行動を抑えるのではなく、万が一に備えた対策を心がけることのほうが大切です。たとえば、ネックストラップを取り付けた見守り用GPSを常に携帯しておけば、道に迷っても家族はどこにいるかを確認できます。

「認知症=人生の終わりではない」…人気東大卒医師が警鐘「中期までの認知症患者は自由な行動をさせた方がいい」_2

「認知症の人が散歩などに出たら、自動車に轢かれてしまうのではないか」と心配されるケースも多いのですが、それは杞憂です。

私はこれまでに4000人ほどの認知症の患者さんを診察しましたが、「自由に歩き回って車に轢かれてしまった」という患者さんはひとりもいません。

認知症の症状が進んだとしても、すべての能力が失われるわけではなく、いくつかの能力は残り続けます。なかでも、自分の身の危険性を感じる能力はもはや動物的本能なので、最後の最後まで発揮されるのではないかと思います。

認知症のひとり暮らしも危ないと考えられがちですが、実は認知症患者さんでひとり暮らしをしている方は大勢います。かなり重い人でもひとり暮らしをしています。

認知症になったからといっても、いきなり何もかもができなくなるわけではありません。

「残存機能」といって、昔から習慣づけていた行動ならば、認知症になっても変わらずにできることもたくさんあります。

「認知症=人生の終わり」だと悲観しないでほしいと思います。