梅毒の細菌が脳に入る「脳梅毒」
――報道の反応を見ても、そういった声は少なくなかったです。
だから、市民にとっても、家族にとっても、当事者にとっても事態はどんどん悪くなっていっているんです。障害のある子供に親が手をかける事件は相変わらず起きていて、そもそも国が、制度や法律を変えてまで事件化を後押ししている。私もそろそろ、この殺し方だったら執行猶予が付きますよというような指南をする『始末の仕方(仮)』という本を、別名義で出そうかと思うくらいです(苦笑)
――『「子供を殺してください」という親たち』とは、正反対ですね(笑)。漫画の方では、今後の展開について考えていることはありますか?
次回は梅毒を取り上げます。梅毒といっても、私が経験したケースは、梅毒の細菌が脳の血管に入ってしまった「脳梅毒」(脳梅)で、実は認知症として施設に入っている人の中には脳梅の人がいるんですよ。でも、そこは医者も見極めできていません。ギリギリまでわからないんですね。
私が見た患者さんは、梅毒の治療は一時的には受けていて、鼻も何もすべてちゃんとあるんです。でも、最終的には「なんだよ!」「うるせえんだよ!」「だから何だってんだよ!」の3語しか言えないんです。見た目の部分ではわからないけど、細菌が神経に入り込んで脳を侵しているんですね。そういった脳梅の人も、入る病院は精神科病院なんですよ。
――脳梅という言葉も初めて聞きました。すごく怖いですが、あまり提唱されていないですよね。
梅毒は症状の出方にも個人差があって、複雑な進行形態をとるため、表に出るのは分かりやすい情報だけです。今回、梅毒をテーマにするにあたって、懇意にしている精神科医に見極めがどうなっているか聞いたら「実はもう、見分けがつかないケースもあります」と言っていました。 私は、その事実にかなり昔から遭遇しているので、これが押川の見てきた梅毒だというものを見せたいと思います。
――ちなみに、脳梅の治療法はあるのでしょうか?
脳梅になったら、もう長くはないのではないでしょうか。最後は認知症のようにもなりますが、認知症と思ってアプローチしたら大間違いなんです。私が携わった患者さんも、意外と社会性があって、本能的に女の人の前では大人しく話を聞いていたりしますからね(笑)。
11巻【奴隷化する親たち】寺島直之のケース
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取材・文/森野広明