すぐそこまで迫っているスマートグラス実現
スマートグラスの実現・普及はそう遠い未来ではない。
例えば、凸版印刷はAR技術を活用して観光資源の復元をするサービスを展開している。位置情報と連動させて、すでに失われてしまっている天守閣などの史跡をスマートフォン越しにAR技術で映し出すことで昔の状況をイメージさせてくれるサービスだ。
世界各地では防犯カメラに映った人の動きによってAIが犯罪予測してくれる技術を導入しているし、メルセデス・ベンツは、BCIを使って自動車の運転を可能にする技術を開発している。
また、日本のQDレーザという企業は、「網膜投影ディスプレイ」をすでに開発・販売している。これらの要素技術は、2023年時点では実現されている。これらの技術を小型超高性能システムに搭載できれば、それほど遠くはない未来にスマートグラスの実現は可能となるだろう。
スマートグラスは熟練の技術の継承も容易にする
スマートグラスは人間の能力に大きな影響を与えるだろう。
スマートグラスを装着すると、さまざまな情報を目から脳に伝達しながら、同時並行での作業ができるようになる。対象物を見たまま作業が可能になるので、視点を大きく動かさずに済む。この利点は卓越した技、熟練の技法などの習得にも役立つだろう。
これまでの技法の継承作業といえば、師匠が弟子に技を見せ、弟子が実際に手を動かしてみて師匠からフィードバックを受けていた。この作業を何年も繰り返して一人前になっていく。しかし、スマートグラスを使えばAIによって機械学習した技を目の前に映しながら、効率よく習得できるようになったりする。人手不足、後継者不足の解消にも一役買うだろう。
そこまで高度な話でなくとも、緻密で他人にしかできなかったことも真似することが容易になるのではないか。例えば料理、絵画、取扱説明書を見ながらの家具の組み立てなども、早く理解でき、効率よくできるようになるのではないだろうか。
この市場は非常に巨大なものになると考えられる。
イギリスのInforma社によると2022年の世界のスマートフォンの市場規模は、おおよそ4000億ドル、日本円にして約56兆円(1ドル140円換算)だ。スマートグラスとスマートフォンの価格帯に大きな差異はないと仮定すれば、スマートフォンはスマートグラスに取って代わられ、ガラケーからスマートフォンに変わっていったような流れで普及が進むのではないだろうか。そして、これに派生する市場も高度になり、巨大なものになるに違いない。
文/齊田興哉 写真/shutterstock