お前は人形の身で若道(衆道)の心を持つとは優美なことだ
中でもたいていのことには驚かぬ男が進み出て、人間に挨拶するように、「お前は人形の身で若道(衆道)の心を持つとは優美なことだ。二人の吉三郎に思い入れがあるのか」と言うと、人形はすぐさまうなずきます。
人々はすっかり酔いがさめ、人形の歴史を語るなどしたあと、まだ枕元にあった飲み捨ての盃を取って、「これはお二人のお口が触れたものだぞ」と人形の口に差してやって、
「だいたいこの若衆たちに焦がれる見物人たちは数知れぬほどだ。とても叶わぬ道理だ」と、望みの叶わぬ子細を囁くと、人形ながら合点のいった顔つきをして、その後は諦めたといいます(「執念は箱入りの男」)。
役者買いバブルのような現象が起きていたのかも
少年の年ごろの人形が若衆に恋をするのが不気味でありながら切ない話ですが、西鶴はこの話を紹介したあと、「人形ですら聞き分ける賢い世の中なのに、親の意見をないがしろにし、野郎狂いが高じて家を失い、飽かぬ妻子に離縁状を遣わし、都を出て江戸に行ったからといって、小判の一升入った壺が埋まっているわけもない。
しかし一代使っても減らぬ金の棒があるなら、一手に持ちたいのは竹中吉三郎と藤田吉三郎だ」と、役者買いが高じて家や妻子を失う者がいる世相を嘆きながらも、二人の吉三郎には千金の価値があると締めくくっています。
カネの世の中が極まって、豊かになった元禄の世では、役者買いバブルのような現象が起きていたのかもしれません。
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