日本人俳優のプライドをかけた演技
キャスティングされた日本の俳優陣も、他に類を見ないほど豪華絢爛で、高倉健や松田優作、神山繁や若山富三郎など日本映画界を代表する名優が名を連ねている。
日本市場に外資を投入した破壊的なスケールの大きさは、今でいうNetflix製作のドラマのようだと感じた。
これだけの俳優がアメリカ製作のアクション映画でどのような演技をするのか。注意深く見ていると、みなが揃って、表情や立ち振る舞いを少しオーバーにデフォルメしているのがよくわかった。
なかでも松田優作の怪演っぷりは、まるでジョーカーのようなダークヒーローの身のこなしで、思わず目を引くものがあった。
高倉健ただひとり、極めていつも通りの控えめな演技をしていたのがいかにもで、そのバランスが気持ちよく、より一層、松田優作の快演を引き立てているようにも見えた。
日本人俳優らのプライドをかけた演技と、アメリカ映画らしいド派手なアクションをひとつの作品にまとめ上げるのは、想像を絶する苦労があっただろう。
リドリー・スコット監督は黒澤明を敬愛していると公言しているだけあって、日本人俳優の持ち味の引き出し方や、任侠映画特有の“すごみ”の描き方が丁寧で、終盤の田畑を舞台にしたアクションシーンでは、1950年代の黒澤作品へのリスペクトが伺えた。
「あの頃はよかったな」の、あの頃を知らない筆者にとってはただただ眩しく、どこか嘘みたいに映る作品だった。
文/桂枝之進
『ブラック・レイン』(1989)Black Rain 上映時間:2時間5分/アメリカ
レストランで偶然、日本のヤクザによる殺人を目撃したニューヨーク市警のニック(マイケル・ダグラス)とチャーリー(アンディ・ガルシア)は、犯人である佐藤(松田優作)を日本へ護送することに。ところが、空港で警察官を装った佐藤の手下たちに引き渡してしまう。大阪府警の松本(高倉健)の監視のもと、ニックとチャーリーは権限がないにもかかわらず、強引に捜査に加わることに……。