なぜ「知らない奴ら」を助けるのか?

さて、さっそく取材開始である。パトロナスの人たちの一挙手一投足をこの目に焼き付けるのだ。こんなとき、取材の鉄則は1つ。それは、取材対象者の中に入ってしまうことである。

ノルマさんは、街のスーパーマーケットから支援物資をもらいに行って、帰ってきたところだった。トラックの荷台いっぱいに積まれた食料。これは移民の人たちのために地元のスーパーが提供してくれた、廃棄処分になる少し前の食料だ。パン、豆、ツナやミックスベジタブルの缶詰、スパゲッティ、お米、ケーキ。ん? ケーキ? なぜか大量にケーキがある。先ほどまで料理をつくっていたおばちゃんがニコニコしながら、大きな鍋いっぱいのメキシカンピラフを持ってくる。

「そのケーキは、近所のスーパーからもらったんだよ。移民の人たちにあげてくれって」
「でも、ケーキ、1つまるまる。ホールケーキですよね」
「そうだねぇ」
「え、このケーキをあげるの?」
「まあ、そうだねえ」そう言って、おばちゃんたちは、食事を袋に詰めはじめた。
「こうやってしっかり口を結ばないと、袋から食事がこぼれちゃうからね」
おばちゃんたちは、非常にテキパキと動いて、食事をどんどんとビニール袋に詰めていった。
「こうやって食事をどんどん、用意しておくんだよ。列車はいつ来るかわからないからね」
「え、わからない? じゃあ、どうやって待ってるの?」
「汽笛が聞こえるんだよ……その音が聞こえたら、外に出るんだ」

へえ。汽笛の音が聞こえるのか。なるほどな。でも、汽笛を聞いてから飛び出しても間に合うのかなあ。そう思いながら、ぼくは妻と運転手のマヌエル、おばちゃんたちと一緒になって、どんどんと食料を袋に詰めていった。

「移民だから助けたわけじゃない」メキシコ全土に名を轟かせるパトロナスが、移民に手を差しのべる“ただひとつのシンプルな理由”_3
撮影/嘉山正太

袋詰めをしながら、彼女たちの思い出話を聞いていた。恥ずかしそうに俯きながら喋るおばちゃんは、フリアといった。
「この活動をはじめたときは、家族から反対されたわよ。なんで、そんな知らない奴らを助けてるんだって。なんか別の理由があるんじゃないかって、疑われたりさ」

ここにやってくる移民は、大半が中米の人だ。グアテマラやホンジュラス、エルサルバドルなど、中米のなかでも治安や経済状況がよくない国の人たち。そんな国の人たちからしたら、メキシコはものすごい大国に見える。そして、実際に大国だ。領土も大きいし、人口も多い。経済規模だって、中米の他の国に比べれば桁外れに大きい。だから、そこには見えない壁がある。アメリカとメキシコの国境に建つ壁のような。そこに歴然とした「差異」があるわけじゃないけど、人々はそこで区別し、区別される。

たとえば、日本人のぼくからしたら、ホンジュラス人とメキシコ人の違いはわかりづらい。同じラテンアメリカの国だし、兄弟のようなものじゃないかとも思ってしまう。でも、自分たちを含むアジアの国々についても同じことが言えるだろうか?

たとえば、中国と韓国と日本は同じアジア地域だけれど、違う国だし、言葉も全然違う。でも、ラテンアメリカでは、同じアジアなんだから兄弟みたいなものと思っている人も多い。はたから見てもわからない違いはどこにでもあるのだ。