コンサートホールからフェスへ…ギタリストの役割の変化
『ぼっち・ざ・ろっく!』人気が高まる一方、ロック界では衝撃的な報道が流れた。今年1月に、「ザ・ヤードバーズ」で活動し、先進的な奏法でファンを魅了したギタリストであるジェフ・ベックが78歳で亡くなったのである。近年、ロックミュージック黄金期に活躍したギタリストの訃報が相次いでおり、悲しみの声が広がっている。
そうしたなかでネット上では、現代はカリスマ的人気を持つギタリストの存在が少なくなってきているという声も見受けられた。『ぼっち・ざ・ろっく!』の人気ぶりを見ていると、この温度差は対照的にも思える。
「往年のロックを愛し、現在のシーンに疎くなってしまった層からすると、たしかにそう思ってしまうでしょう。しかし、実際にはバンドにおけるギタリストの役割は決して減ってはいません。言い換えれば、時代の流れによって根本的にバンドサウンドの聴かせ方が変わったと見るべきです。
それには、ロックバンドのライブの舞台が、コンサートホールから野外フェスに変化していったことが大きいです。90年代前後まではコンサートホールが主流で、観客は指定された座席で鑑賞することが一般的でした。こうした鑑賞スタイルでは、観客はミュージシャンの歌唱や演奏やパフォーマンスの一挙手一投足をじっくりと見ることになるので、往年の名ギタリストたちはギターソロをたっぷりと披露することができたんです。とりわけ70年代から80年代にかけてのハードロックやヘヴィメタルは、大型のホールやスタジアムで公演することが多く、ギターソロという見せ場を必ず用意していました」
2000年代を前後にロックバンドの舞台が野外フェスへと変わるにつれて、ギタリストの立ち位置は大きく変化することになったという。
「野外フェスとなると座席はないですし、観客もじっくり演奏を鑑賞するというよりは、音楽に合わせて踊ったり、客同士で身体をぶつけ合ったりする参加スタイルに変化していきました。そのため、ギタリストがギターソロを弾いても観客のノリ的に合わず、そもそもステージを見ていなかったりします。そこで、ギターソロをフィーチャーするのではなく、全体のアンサンブルを重視したバンドがウケてくるようになります。
なお、『ぼっち・ざ・ろっく!』の結束バンドも、ぼっちちゃんのギターテクを前面に押し出すのではなく、あくまでバンド全体のアンサンブルを意識した演奏になっています。ぼっちちゃんもギターソロを弾くだけではなく、バンド全体で重厚感のあるサウンドを作ることに徹しています。ロック全体の流れとしては、ギタリストの役割が往年のファンが思っているような派手なものではなくなっているのです」