異例の人事の数々…年功序列、順送りの慣例を崩した人事

何やら自己弁護に似た言い訳を書いたが、要するに、これから取り上げる事例は日本のキャリア官僚制度の代名詞ともいえる年功序列、順送りの慣例を崩した人事といっていい。それが、内閣人事局発足に伴って起きた事例なのかどうかは証明のしようがなく、霞が関での話題やマスコミの記事を参考にするしかないので、登場人物は実名は避けてイニシャルで書くのをご容赦願いたいと思う。

安倍・菅を作りあげた官僚を恐怖で縛る鬼の人事制度…森友問題”功労者”を出世させ、ふるさと納税制限発案者を左遷した内閣人事局の功罪とは_4

[2015年7月]

◯金融庁の人事で、M監督局長が大方の予想より一年前倒しで長官に就いた。Mは金融行政の見直しを積極的に進め、早くから将来の長官と目された本命ではあったが、年功序列の色彩が強い財務省系列の役所では前例や慣習を破った人事と受け止められた。その結果、前任のHは二年間務めるであろうという金融業界の予想を覆し、一年での退任を余儀なくされた。その要因に、官邸が求めた農協改革に絡む協力依頼に対し、消極的だったことが不興を買ったと見られた。

◯総務省自治税務局長だったHが、自治大学校長への異例の人事を発令された。自治税務局長は同財政局長と並ぶ出世コースであり、次期次官就任が確実というわけではないが、いきなり自治大学校長への転出は誰の目にも「左遷」と映った。ふるさと納税で限度額の引き上げを主張する菅義偉官房長官に、Hは高所得者の寄付額を制限する案を進言し、即座に却下された。その後、上司からは「予定していた昇格人事が官房長官の意向で覆された」と聞かされたという。

[2016年6月]

◯農林水産省の次官に、O経営局長が就任した。Oは農協を監督する経営局長を約五年間務めて、全国農業協同組合中央会(JA全中)を一般社団法人に転換するとともに、JAグループの反発をかわして農協法を改正した実績を買われた。特にこの分野の改革には、菅官房長官がご執心といわれ、その要請に応える形で異例の次官就任となった。

農水省の場合、次官の最短コースは水産庁長官や林野庁長官とされ、農協改革一筋に実績を上げたとはいえ、経営局長からの昇格には意外感が強かった。また、前任の次官はOと同期だが、定年を前にしてわずか10ヶ月で退任を余儀なくされた。

[2017年7月]

◯学校法人「森友学園」への国有地売却問題が国会で厳しい追及を受ける中、財務省の担当局長であったS理財局長が国税庁長官に昇格した。国会答弁で事実確認や記録の提出を拒み続け、「真相解明に消極的」と批判を浴びたSだったが、麻生太郎財務相は「国税庁次長や大阪国税局長といった税の関係をいろいろやっているので適材」と人事を正当化した。野党からは「森友問題の功労者として出世させた」との厳しい指摘も出た。

◯この人事とは対照的に、国有地の売却価格算定問題を追及され、国会答弁がしどろもどろになった国土交通省のS航空局長は退任に追い込まれた。航空局長は国交省の局長の中でも次官への最短コースと見られており、答弁のまずさが官邸の怒りを買い、結果として次官への道が絶たれたと受け止められた。