リサと話し合って決めたポニョの処遇
さて、グランマンマーレの足のゆくえはともかく、このシーンでリサと話し合うことでポニョの処遇は決まります。グランマンマーレはポニョと宗助の相思相愛を確認すると、ポニョを人間にする魔法をかけます。宗助がキスしたポニョは人間の女の子に姿を変えて、おしまい。これを果たして子ども向けアニメのハッピーエンドと呼んでいいのでしょうか。
僕は世間に大人気のウェルメイドな宮崎作品の裏には、隠された怖い世界・設定があることをいつも解説していますが、『ポニョ』の場合はグランマンマーレの正体よりも何よりもこのラストが怖いです。
またもや『続・風の帰る場所』から宮崎駿の言葉を引用します。
***
女ですよ、ポニョは。で、宗助は男です。男の悲哀を十分背負ってこれから生きていくんですよ(笑)。ポニョはますます女になるんですけど。
***
※宮崎駿『続・風の帰る場所』ロッキング・オン
『ポニョ』には、宮崎駿の女性観があらわれている
男を食うグランマンマーレだけが強くて怖くて美しいのではなくて、リサもポニョも、女はすべて強くて怖くて美しい。それが『ポニョ』のテーマです。いわば『ポニョ』には、宮崎駿の女性観があらわれているのです。
先ほどから取り上げている、リサとグランマンマーレが話しているシーン。このシーンの会話内容は、一切、観客に知らされません。遠くで話している描写があるだけでセリフも何も聞こえない。あまりに不自然なシーンです。
内容を教える気がないのだったら、いっそ話し合っているシーンごとカットすればいいのです。そのほうが無駄がありません。アニメは実写と違い、とりあえず撮っておくということができないので、このシーンをそもそも作らないほうがいいのです。ところがこのシーンは、コンテの時点からかなり長い秒数を指定されています。
怖すぎる理不尽なラスト…ポニョのストーカーまがいの恋
つまり、「何を話しているんだろう?」と、観客に想像してほしいということです。教えないけれど想像して、察してほしい。リサとグランマンマーレが何か内緒話をしている、という雰囲気だけは伝えたい。大事なことは知らせてもらえない、という実感を味わってほしい。
宗助の未来は、リサとグランマンマーレの話し合いと、ポニョのストーカーまがいの愛によって一方的に決められてしまいます。宗助はポニョを守ると約束しましたが、あの場面で断れるはずもありません。女性3人に誘導されて、しかも町の運命もかかっているのですから。
大切なことは、女性が決める。男は頭が上がらない。それが男の悲哀。グランマンマーレには逆らえず、ポニョには振り回され、目にクマを作って疲れを感じさせるフジモトは、そのまま宗助の未来の姿です。
そんなハッピーエンドとは言いがたい煮え切らないラストでありながら、何やら楽しげな主題歌でお茶を濁す。その幕引きの仕方こそが、『ポニョ』のなかでもっとも恐ろしいことかもしれません。
#1「〈ジブリアニメ大解剖〉『ハウルの動く城』主人公ソフィーはなぜ唐突に年老いたり若返ったりしたのか…」はこちらから
#3「〈ジブリアニメ大解剖〉ジブリ名作『風立ちぬ』「自分の映画で初めて泣いた」という宮崎駿=堀越二郎の真相とは」はこちら