リサと話し合って決めたポニョの処遇

さて、グランマンマーレの足のゆくえはともかく、このシーンでリサと話し合うことでポニョの処遇は決まります。グランマンマーレはポニョと宗助の相思相愛を確認すると、ポニョを人間にする魔法をかけます。宗助がキスしたポニョは人間の女の子に姿を変えて、おしまい。これを果たして子ども向けアニメのハッピーエンドと呼んでいいのでしょうか。 

僕は世間に大人気のウェルメイドな宮崎作品の裏には、隠された怖い世界・設定があることをいつも解説していますが、『ポニョ』の場合はグランマンマーレの正体よりも何よりもこのラストが怖いです。 

またもや『続・風の帰る場所』から宮崎駿の言葉を引用します。

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女ですよ、ポニョは。で、宗助は男です。男の悲哀を十分背負ってこれから生きていくんですよ(笑)。ポニョはますます女になるんですけど。 
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※宮崎駿『続・風の帰る場所』ロッキング・オン

『ポニョ』には、宮崎駿の女性観があらわれている

男を食うグランマンマーレだけが強くて怖くて美しいのではなくて、リサもポニョも、女はすべて強くて怖くて美しい。それが『ポニョ』のテーマです。いわば『ポニョ』には、宮崎駿の女性観があらわれているのです。 

先ほどから取り上げている、リサとグランマンマーレが話しているシーン。このシーンの会話内容は、一切、観客に知らされません。遠くで話している描写があるだけでセリフも何も聞こえない。あまりに不自然なシーンです。 

内容を教える気がないのだったら、いっそ話し合っているシーンごとカットすればいいのです。そのほうが無駄がありません。アニメは実写と違い、とりあえず撮っておくということができないので、このシーンをそもそも作らないほうがいいのです。ところがこのシーンは、コンテの時点からかなり長い秒数を指定されています。

〈ジブリアニメ大解剖〉本当の『崖の上のポニョ』。宗助へのストーカー的ラブとこれ以上ない“恐怖の結末”…母・グランマンマーレも「男を食い散らかす」ヤバイ女だった!?_4
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怖すぎる理不尽なラスト…ポニョのストーカーまがいの恋

つまり、「何を話しているんだろう?」と、観客に想像してほしいということです。教えないけれど想像して、察してほしい。リサとグランマンマーレが何か内緒話をしている、という雰囲気だけは伝えたい。大事なことは知らせてもらえない、という実感を味わってほしい。 

宗助の未来は、リサとグランマンマーレの話し合いと、ポニョのストーカーまがいの愛によって一方的に決められてしまいます。宗助はポニョを守ると約束しましたが、あの場面で断れるはずもありません。女性3人に誘導されて、しかも町の運命もかかっているのですから。 

大切なことは、女性が決める。男は頭が上がらない。それが男の悲哀。グランマンマーレには逆らえず、ポニョには振り回され、目にクマを作って疲れを感じさせるフジモトは、そのまま宗助の未来の姿です。 

そんなハッピーエンドとは言いがたい煮え切らないラストでありながら、何やら楽しげな主題歌でお茶を濁す。その幕引きの仕方こそが、『ポニョ』のなかでもっとも恐ろしいことかもしれません。

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#3「〈ジブリアニメ大解剖〉ジブリ名作『風立ちぬ』「自分の映画で初めて泣いた」という宮崎駿=堀越二郎の真相とは」はこちら

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はじめに 宮崎駿は何を描いてきたのか
第1章 宮崎駿の鋭すぎる技術論――『風の谷のナウシカ』
第2章 SFアニメはどうあるべきか?――『天空の城ラピュタ』
第3章 手塚治虫の光と影――『となりのトトロ』
第4章 「才能」とはどういうものか?――『魔女の宅急便』
第5章 飛行機オタクの大暴走――『紅の豚』
第6章 始まりは、1954年――『もののけ姫』
第7章 スタジオジブリと銀河鉄道――『千と千尋の神隠し』
第8章 戦争は続くよどこまでも――『ハウルの動く城』
第9章 グランマンマーレの正体――『崖の上のポニョ』
第10章 「堀越二郎=宮崎駿」は本当か?――『風立ちぬ』
終章 進化する宮崎駿 
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