脱会後も「精神的な後遺症」に苦しめられ

18歳になり、脱会した。だが、エホバの証人2世には後になって様々な精神的な後遺症が出てくるとも言われている。アンケートでは、「人格形成にネガティブな影響があった」が160人と最多。「精神的に後遺症がある」が121人などとなっている。咲里栄さんの場合はどうか。

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「19歳のとき、母に『出て行きます』と言いました。母は泣いていました。思うような娘にならなくて申し訳なかったです。自分では記憶にないのですが、当時は泣いて顔をはらした状態で頻繁に出勤していたと当時の同僚に言われます。また一晩中吐いていた時期もありました。母を裏切った罪悪感や、生き方を自分自身で決めることに不安があったのかもしれません。

それでも『自分は偉いじゃん』と思いながら生きています。私にはトラウマはないと思っています。人の目を気にするとか、気を遣いすぎるという性質はあるんですが、結果として、それにより社会でうまくいくことが多かったと感じています。この時にこれを言ったらまずいなとか、これを言ったら相手が喜びそうだなとか、自動的に思考に組み込まれている感じがあります」

脱会した今、小さい頃のことは思い出すのだろうか。

「よく布教活動に行っていたことを思い出します。そうした体験は、自分を形作っている要素の一つだと思っています。ただ、ポジティブに捉えることができるようになる2世ばかりではないと思います」

成人したのち、咲里栄さんは結婚した。相手は宗教2世であったことも受け入れてくれた。しかし、宗教とは別の理由で離婚した。

「離婚したとき、初めて精神的にきつくなったんです。すごく痩せたり、眠れなくなったりました」

離婚したとき、母親は「エホバの証人」に戻るように説得する絶好の機会だと思ったようだ。だが、咲里栄さんの気持ちは揺るがなかった。

「自殺とかを考える性格ではなかったのに、その時期は考えちゃいました。そのため、病院にも行きました。母からしたらエホバの証人に戻す〝チャンス〟だったと思います。猛アプローチを受けました。『エホバはいつでもあなたを受け入れるよ』『待っているよ』『あなたのことをいつでも考えているわ』と。手紙の場合もありましたし、電話の場合もありました。でも、戻ることは全く考えなかったですね」

現在、大学で、宗教2世と教育について研究している。苦しんでいる宗教2世の子どもたちへのアドバイスも話してくれた。

「研究のメインテーマは、『学校に宗教2世の児童・生徒がいたとき教員はどのような指導ができるか』『教員が相談できるシステムを作れないか』ということです。苦しんでいる2世には『学校教育で学ぶことが将来の選択肢を増やす』こと、私のように大人になってから学ぶ『リカレント教育』があることを伝えたい。

本当は高校を卒業して、大学に行きたかったです。でもエホバの証人は、大学進学を推奨してきませんでした。進路を決める三者面談で、『私はエホバの証人です』という証言をさせられ、大学進学を諦めざるを得なかった。だから、社会人になって自分と改めて向き合ってから大学に行くのも悪くないよと、今苦悩を抱えている2世たちに伝えたいです」


取材・文/渋井哲也

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