高級指揮官の強すぎる恥の意識

第三三師団は3月8日に攻勢を発起し、4月10日にようやくインパール盆地の入り口に到達した。一方、3月15日にチンドウィン川を越えて険路を克服した第三一師団は、4月6日にコヒマを占領してインパール街道を遮断した。同じく第一五師団は4月8日、コヒマとインパールの中間でインパール街道に頭を出した。第三三師団の緩慢な動きで勝機を逸したことは明らかだ。

日本軍“史上最悪の作戦”インパールの惨敗を招いた「恥の意識」と「各司令部の面目」_4
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後方連絡路を遮断された英軍は、補給や補充の一切を空輸に頼る「円筒陣地」で持久して戦力比を逆転させ、6月22日にインパール街道を打通した。これで第一五軍は作戦続行を断念し、防勢転移をビルマ方面軍に具申したが、すぐには受け入れられなかった。南方軍、大本営で協議の末、第一五軍に後退命令が下されたのは7月13日だった。

高級指揮官の強すぎる恥の意識、各司令部の面目などが絡み合い、なかなか後退の決心が付かなかったわけだ。こうして雨季の最盛期における退却行となり、経路は靖国街道とか白骨街道と語られる凄惨な様相となった。インパール作戦での日本軍死没者は3万6000人、ビルマ戦線全体で15万8000人にのぼるとされる。

文/藤井非三四 写真/shutterstock AFLO

「勝者は学習せず、敗者は学習する」太平洋戦争の敗戦を決定づけた“日本人特有の戦い方”
「皇軍無敵」に「一撃必殺」。日本軍を敗北に至らせた四文字熟語が持つ“魔力”

太平洋戦争史に学ぶ 日本人の戦い方
藤井 非三四
日本軍“史上最悪の作戦”インパールの惨敗を招いた「恥の意識」と「各司令部の面目」_5
2023年4月17日発売
1,056円(税込)
新書判/272ページ
ISBN:978-4-08-721262-4
負けるには理由がある
この国が今なお抱え込む「失敗の本質」を深掘りした日本人組織論の決定版!

【推薦コメント】
あの戦争において、大日本帝国がいかにして失敗のスパイラルに陥って行ったかを克明に描き出している。
あの戦争をやってしまった日本社会の実質は、何も変わっていない。
────白井聡氏(政治学者・『国体論 菊と星条旗』『武器としての「資本論」』)

【おもな内容】
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人間関係で全てが決まる。
成功体験から抜け出せず、同じ戦い方を仕掛け続ける。
恥と面子のために方針転換ができず泥沼にはまり込む。
想定外に弱く、奇襲されると動揺して浮き足立つ。
このような特徴は今日の会社や学校などの組織でも、よく見られる光景ではないだろうか。
本書は改めて太平洋戦争を詳細に見直し、日本軍の「戦い方」を子細に分析する。
日本人の組織ならではの特徴、そしてそこから学ぶ教訓とは。
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