買い負けの次は雇い負け?
日本の一人あたりGDPは1990年以降、ほとんど伸びていない。そのため賃金が伸び悩み、円の購買力を示す実質実効為替レートも過去最高だった1995年の150.85ポイントから、2021年には67.79ポイントにまで落ちこんでいる。これは今から50年前の1970年と同水準の低さだ。「安いニッポン」と呼ばれるのも当然だろう。
この現状を前に、前出の監理団体役員がこうつぶやく。
「それでなくても近年、本マグロなどの高級食材取引で、購買力の低下した日本勢が経済力をつけたアジア諸国に買い負けするということが起きていました。このまま円安基調が続けば、買い負けの次はまちがいなく雇い負けです。外国人労働者が安い円の日本で働くことを避け、もっと強い通貨の国を選ぶようになってもおかしくありません」
この監理団体役員によれば、この1~2年、日本語を学ぶなど、日本で技能実習生として働く準備をしていた外国人労働者が来日をドタキャンするケースが目につくという。弱い円を嫌い、働き先をより多くの賃金収入を見こめるオーストラリアやカナダ、台湾、アラブ首長国などへ切り替える動きが広まっているためだ。
前出の鳥井氏が続ける。
「円安基調が長く続き、外国人労働者にとって日本で働く魅力が薄れている現状はいかんともしがたい。ただ、外国人労働者は賃金の高さだけで働き先を決めているわけではない。安心、安全に働けるかどうかも大切なポイントなんです。その点、日本は治安のよさは世界トップクラス。だから、あとは外国人の人権や労働の権利を保障し、外国人であっても働き先で公平に昇進できたり、技術を習得できるような制度をきちんと整備すれば、『安いニッポン』であっても日本が雇い負けすることはないのでは?」
4月18日、ようやく危機感が高まったのか、政府有識者会議が深刻な人手不足に対応するため、低賃金労働やパワハラ・セクハラ多発などで評判の悪い「技能実習生制度」を廃止し、専門知識を持つ外国人を受け入れる「特定技能制度」を拡充すべきとの提言作りが始まったことが明らかになった。
しかし、残された時間は多くない。日本が「雇い負けニッポン」のドツボにはまらないためにも、ここは政府、日銀が一丸となって外国人労働者に「選ばれるニッポン」になるための打開策を急ぎ講じるべきなのでは?
取材・文/集英社オンラインニュース班 写真/shutterstock