「おかあさん、ちょっと上で横になってきます」そう宣言すると、子供たちは「はいはーい。いってらっしゃーい」と送り出してくれる。2階の和室に上がり、お布団を敷いてよっこいせと眠ると見せかけて、ぐるりとひっくり返りうつぶせに。
肘を立てて、いそいそと開くのはマンガである。
映画「THE FIRST SLAM DUNK」が公開され、私はなんの前知識もないままに家族と共に観に行った。
……まあ、なんということでしょう。開始5分で、ウグウグと泣き、映画が終わる頃には、「ありがとう」とスクリーンに向かって拝む気持ちに。その日のうちに鎌倉高校前駅まで行ってしまった。
次の週末には「我が家の推薦図書だ!」と原作コミックを全巻購入。ああ、こんなにも心が弾むのはいつ以来のことだろう。今日もしんどい。きっと明日もしんどい……。そんな私の日々にドヒューンと飛び込んできたのが『SLAM DUNK』なのだ。
何を今更と思われるかもしれないが、連載当時全くハマらなかった私にとっては、青春をもう一度味わっている感覚なのである。バスケがしたい! シュートを決めたい! バッシュ買いに行きたい!
押し潰されそうな気持ちになっても、ひたむきに突き進むことで人は強くなれる。そして努力すればするほど、それは自信に変わっていくのだ。
華麗なるプレイの躍動感に胸をときめかせながら、お布団にくるまり家事も仕事も全てを投げ打って読んでいく。私も充電が完了したら高く飛べるはず、だ。
しかし現実は厳しい。燃えるような体力の子供を毎日相手にしていると、自分の衰えを強く実感する。いつも夕方には、疲れきってソファで横になって小休憩。が、また子供はすぐに私のお腹の上に飛び乗ってくる。うぐぐ。
こんな時は迷うことなき、「YouTube見ていいよ!」の魔法のひと言である。
はぁと一息ついて『とりあえずお湯わかせ』を開く。何度も何度も読んでいる柚木麻子さんのエッセイ集だ。話題は多岐にわたり、シリアスな社会問題も扱われている。しかしどんなテーマでも、笑って吹き出してしまうほど柚木さんの文章は、ウィットに富んでいて、「『新しい』こいのぼり」なんて、暗唱したくなるほど面白い。
私がこの本に惹かれ続けている理由は柚木さんの「真っ当さ」だ。さまざまな理不尽な事象を、ねじふせていくユーモアと知性。柚木さんと同じ時代に生きることができて良かったと心から思う。
ゴロンと横になり、好きな本を読んで。
いつの間にか、YouTubeを見ていた息子が横に来て漫画を読み始めている。熱の塊のような子供とくっついて過ごしていると、空気が湿り気を帯びる。
この今こそが、なんと充実した時間なのだろうかと思うのだ。