盆に乗った客席が360度回転

① 回転と巨大スクリーンがもたらす没入感

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撮影可とされた開演前のスクリーン映像

江戸時代の歌舞伎を発祥とし、いまでは世界中の劇場で採用されている「廻り舞台」。IHIステージアラウンド東京(以下、「ステアラ」)に至っては、盆に乗った客席が360度回転します。『FFX歌舞伎』では、この舞台機構と巨大スクリーンとを組み合わせることで、ダイナミックな舞台転換が実現しています。とくに上手いと思うのが、劇場の円形構造を生かした一体感の演出です。

最たるものが、空の移動手段である飛空挺の場面。舞台前方に組まれたコックピットとサイドの巨大スクリーンが連動することで、観客もクルーの一員として空を飛んでいる感覚になります。飛空挺の動き出しの瞬間に、客席を少し揺らすのがとてもリアルです。

また、通常の舞台作品ではCGの多用で興ざめすることもありますが、本作は元がゲーム世界であるため、客席を取り囲む高さ8メートルに及ぶスクリーンに次々と映し出される景色や街並みがしっくりきます。ゲームの中に放り込まれたようです。

それゆえ、「シン」と呼ばれる巨大な怪物が、街や村を破壊する場面などは、惨状に目を背けたくなる迫力です。ミストスクリーンを使った幻想的な場面も、強く印象に残ります。

② ここぞというときに召喚される「歌舞伎」

冒頭こそ主人公たちは白浪五人男のような名乗りをあげますが、その後、台詞はほぼ現代語で進行します。それゆえ、歌舞伎になじみない観客が置いていかれるようなことはありません。ですが、口跡の端々に歌舞伎俳優としての型は宿ります。このバランスは、全体の演出についても言えます。

そして、ここぞという場面では、立廻り、舞踊、義太夫など、歌舞伎へと思い切り演出が振られます。とくにボス戦での立廻りにおける、蜘蛛の糸やサラシを使った魔法の表現は、CGとかけ離れたアナログ感が超自然的なリアルを呼び寄せ、それ自体が魔法のようです。