幻となった日本シリーズ1軍デビュー

そんな中でオリックスが山下の1位指名に踏み切れたのは、「素材型」をしっかり育成できるだけのプランと、それを完遂できる実績、自信があったからだろう。

また、投手に対するマネジメント、育成は中嶋監督が一軍監督に就任して以降、より緻密に、計画的になっているとも感じる。開幕戦で先発した山下は、翌日に一軍登録を抹消。今季は、登録と抹消を繰り返しながら中10日以上の間隔で起用されることが想定される。この起用法は、WBCでも鮮烈な投球を見せた佐々木朗希(ロッテ)や、同学年の奥川恭伸(ヤクルト)の2年目を想起させる近年のトレンドでもある。

また、日本一を達成した昨季はシーズン通して3連投が山﨑颯の一度だけ。日本シリーズ第5戦では前日に“回またぎ”をした山﨑颯、宇田川をベンチから外した措置からは、投手の負担軽減に細心の注意を払っていることも透けて見える。

こういった起用法、育成プランを鑑みると、オリックスの若手投手陣が近年、目覚ましい成長を見せていることも決して偶然ではないことがわかる。

山下に関してもそうだ。1年目は二軍で18試合に登板し、防御率5.48。ドラ1ルーキーとしては決して満足いく数字ではなかったはずだ。2年目は新型コロナウイルス陽性による離脱や、腰痛もあって二軍8試合登板のみにとどまったが、クライマックスシリーズファイナルと日本シリーズの第4、5戦ではベンチ入り。この時点で一軍公式戦出場はなかったが、「一軍の空気」だけはしっかりと体感させて3年目の成長へと繋げた。

もちろん、まだ開幕戦の1試合に投げただけ。今季、山下が一軍でどれだけの結果を残せるかは未知数だ。ただ、オープン戦と開幕1試合で残した数字以上に、投げるボールの威力、“えげつなさ”は他球団、そしてファンに鮮烈なインパクトを残した。