技能実習生なしでは、地方の産業構造を維持できない
もはや「現代の奴隷制」が続かざるを得ないのが現状だという。
「山間部や離島では、農林業や漁業、畜産業の働き手となる日本の若者はほとんどいません。地方の産業が衰退し、空洞化しつつあるのを辛うじて食い止めているのが、技能実習生たちです。
技能実習生は居住や職業選択の自由が事実上ほとんど認められておらず、これは明確に人権侵害なのですが、この『人権侵害』によって日本の地方の産業が守られ、私たち日本人が安くて便利な暮らしを享受できている面は間違いなくある」
技能実習生なしでは、地方の産業構造を維持できないのだ。
「そうした現実と『人権侵害』の解決を天秤にかけた時、それでも外国人の人権を守れと言える日本人は、決して多くないはずです。牛丼やハンバーガーが20円、30円値上がりするだけで大騒ぎになるんですから、外国人の人権を守るための値上げを、納得して受け入れられる日本人はあまりいないでしょう」
田植えや稲刈り、野菜や果実の収穫、カツオ漁、イカ釣り漁、鉄筋組み立て、鳶職、左官、食品工場、繊維工場、金属プレス、ビルクリーニング、高齢者介護……。今や日本の一次産業やサービス業の現場は、「外国人技能実習生」抜きには回らなくなっている。
「誤解を恐れずに言えば、技能実習制度の構造は、第二次大戦当時の『慰安婦制度』とやや近しい部分もあります。たとえば、日本政府や日本軍が“直接的に”慰安婦を集めたり強制連行したりは、おそらくしていない。実際は人集めを請け負った民間業者が、なかばウソの好条件を餌に人を集めて、ブラックな職場に送っていた。ゆえに一部の民間業者の問題について、政府に責任はない、というズルいロジックを主張する余地が一定程度残されています。
同様に、技能実習制度についても制度設計を行なったのは国なのですが、さまざまな問題を引き起こしているのは民間の業者であり、政府がそれを積極的に推進してきたわけではありません。……まあ、事実上の『黙認』はしていたかもしれませんが」
技能実習制度の建前は「国際貢献」だが、政府の本音としては「安い労働力が欲しい」。本音と建前の矛盾のなかで、一種の鬼子(おにご)として生まれたのが逃亡技能実習生、すなわちボドイである。制度の歪みによって生まれた不穏な人々は、見えないところで増殖を続けている。
#2 40分7500円のチャイエス嬢に転身したベトナム人女性
取材・文/西谷格