ゲイラカイト、爆竹、クジラ、あべ静江、シャーボ……。
ノスタルジックが止まらない
高蔵寺ニュータウンを訪れたのは、出発から2日目の2023年1月14日(土曜日)のこと。
近づくにつれ次々と見えてくる風景に懐かしさを覚えつつ、車を高蔵寺ニュータウン最大のショッピングセンターであるサンマルシェの駐車場に停めた。
サンマルシェ。まだあったのか。
ここは1976年、僕が高蔵寺ニュータウンで暮らし始めた年の10月に、鳴り物入りで開店した商業施設で、ピッカピカの真新しいサンマルシェに、家族で初めて訪れた日のことを今でも鮮明に覚えている。
現在は北側のアピタ館と、サンマルシェ南館に分かれているが、当時はまだ南館は建っていなかった。
そこには大きな空き地が広がっていて、よく兄や友達と遊びに来ていた。
大人は滅多に通りかからなかったので、好き放題の冒険を繰り広げた思い出の場所なのだ。
いくつもつなげた長い凧糸でゲイラカイトを高く高く揚げ、隣の山の頂上に見える自衛隊の基地に届かせようとしたり、持ち寄った大量の爆竹に同時に火をつけ、テレビの爆破シーンの再現を試みたり、捕まえたトンボとバッタを糸でつなぎ、どんな動きをするか観察したりした。
動画を撮ってSNSに投稿したら、炎上しそうなことばかりだ。
スマホやネットがない時代でよかった。
現在のアピタ館の場所は当時、ユニーという名の総合スーパーと専門店街のサンマルシェが建っていたはずだ。
“アピタ”ってなんじゃ?と思って調べてみたら、愛知県稲沢市に本社を置くユニー株式会社が運営する店舗のうち、大型店のことを今はそう称しているらしい。
ユニー高蔵寺店は2005年、同社の新しいブランドであるアピタにリニューアルした。
そしてユニー株式会社自体は2019年、ドン・キホーテを運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングスの完全子会社になったのだとか。
なんだか時の流れをしみじみ感じるが、読者の方はついてきているでしょうか?
まあ、いいけど。
今っぽい店が並ぶアピタ館に、かつてのユニー&サンマルシェの面影はない。
僕が記憶しているサンマルシェは、中央広場を囲う「ロ」の字形の建物だった。
その中央広場では色々なイベントが催され、僕はいつも楽しみにしていた。
特に強く記憶に残っているのは、中央広場に本物のクジラがやって来た日のことだ。
もちろん生体ではなく、クジラの屍体が広場にドーンと展示されたのである。
触るのもOKだったので、僕を含むちびっ子は皆、興味津々で死んだクジラを撫で回したり抱きついたりして感触を確かめた。
いま考えると、なかなかすごい企画だ。
70年代って、現代の日本とはまったく違う世界だったのかもしれない。
“あべ静江歌謡ショー”もあったっけ。
思えば、生の芸能人を初めて見たのはそのときだった。
可愛かったなあ、あべ静江さん……。
今は71歳らしいが、お元気なのだろうか。
スガキヤのラーメンのおいしさを知ったのも、文房具屋で見かけたシャーボやカメラ店で見かけたポケットカメラが欲しくてたまらなくなったのも、サンマルシェだった。
嫌で嫌で仕方がなかったのに、半ば無理やり通わされたサンマルシェ内のスイミングスクールがあった場所は、現在、ユニクロの店舗になっていた。