海外のジャーナリストには、浩輔と龍太の経済的格差を聞かれる(宮沢)
──ゲイカップルの物語ではあるのですが、セクシュアリティがどうであれ、カップル間の経済的な格差って、交際中に結構、対等な関係を築くにあたっての互いの配慮や努力がないと、いろんな局面で傷つく場面が出てきますよね。
そういう意味で、大人のカップルのリアルタイムの恋愛映画を久々に見た、見たかったのに、これまでなかったという印象を受けたし、現在進行形であることを感じさせてくれる映画だなと思いました。
松永「もちろんこれはフィクションであるんですけど、そして本人を目の前にして言うのは恥ずかしいですけど、この映画、役者のリアクションがとにかく素晴らしくて(笑)。それは、台本に書いてあるものと書いてないものがあるんですけど、僕は今回の氷魚が演じた龍太のいろんな顔が好きなんです。
特にすごいなあと思ったところは、浩輔が龍太に車をプレゼントするところ。これは僕が買うよって言われた時に、氷魚は最初、素直に受け入れた表情をしていたんですね。あそこ、龍太がさすがに車一台、プレゼントされるのはちょっとというと、浩輔が『じゃあ、半分を出して』と言うんです。何回かリハーサルを重ねたときに、氷魚に僕は『自分でも半分払わなきゃいけないんだったら、今の生活よりもさらに、自分が頑張んなきゃいけないっていう、そのしんどさを感じて欲しい』と伝えたんです。
今、十分に働いているのに、さらに働かなきゃいけない現実を自分が1番わかっている。そう演出した後の表情が、実際に映画に使ったOKカットなんですけど、あの時の氷魚の浮かべた表情が、浩輔と龍太の関係の中でのエゴイストというテーマを最もあらわにした瞬間かなあと。相手が援助してくれるのは嬉しいけど、その分、自分にも負担がかかるので、どこかでは喜べないみたいな。あの氷魚の表情は相当いい」
宮沢「あそこでの浩輔さんへのありがとうは、本心のありがとうかもしれないし、嘘をついてのありがとうかもしれない。これ以上、俺は頑張れるのかなみたいな、頑張んなきゃいけないし、浩輔さんのためにって、思っているのもある」
松永「観客の中には、その表情を見落とす人もいるかもしれないけれど、僕からすると、あのショットが撮れた時、氷魚と一緒に作品を作れてよかったと心底思いました。それくらいすごかった」
宮沢「海外のジャーナリストの方と話をすると、この映画では基本的に、浩輔と龍太の経済的な格差についてすごく話されますね」
与えてもらうばかりの交際への罪悪感、浩輔はどれだけ感じていたか(宮沢)
──日本だけじゃなく、経済的な格差が、カップル間の格差にならないようにすることって、すごく難しいことだし、リアルな問題なのかもしれません。
松永「これは狙いでもあるのですが、マンションに住んでいる浩輔が、高層の部屋から、地上にいる龍太に手を振る風景が象徴的ですよね。浩輔は自分の稼ぎの中でできることを自分の生活の中でやっているけれど、龍太は家が貧しくて、本来の自分の生活ではできないことを、浩輔との交際でトライするようになる」
宮沢「それは、演じながらもちろん感じました。龍太としては自分の稼ぎでできることってすごく限られていて、浩輔さんのために、自分から何かをするってことができなくて、とにかく与えてもらってばかりだったので、そこに対する罪悪感は常にありました。自分はこの人のために何ができるんだろうっていう葛藤は常にあって。そのことに対して、浩輔さんはどこまで感じているんだろうとか」
──浩輔さんと付き合わなかったら、龍太のその後の人生か全く変わっていましたよね。
松永「そうですよね。ただ、浩輔と出会ったから、人生は地獄ばかりじゃなかったとも言っている。そこが切ない」
母親が意図的に出していない感情も、子どもは感じ取ると思う(宮沢)
──映画は中盤から、龍太の母親の存在がとてつもなく大きくなっていきます。時代性もあって、龍太と浩輔はゲイカップルとして交際していることを、阿川佐和子さん演じる龍太の母に言わずに交流していき、原作にはこのお母さんに対する罪悪感についての文章もあります。お二人は、この母親の存在をどう感じられましたか?
宮沢「僕は長男ですけど、自分が生まれるタイミングで母がきっぱり仕事を辞めて、育児に専念して、友人たちとの時間や、プライベートでの楽しい時間をすべて削って、子供たちのためにエネルギーを使っていた姿をずっと見てきたので、龍太と近い感情を脚本から受け取りました。特に、龍太のお母さんは体が弱いのに、息子に苦労させないため、辛い顔を見せないところが特に。
母親本人が意図的に出していなくても、息子というのは感じ取ると思うんですよ。だから、自分がお母さんのために何かできるんじゃないかと葛藤するし、でも、自分が思っている方向ではサポートができないので、そこで『ごめんなさい』とか『こんな息子ですみません』という思いは常にあると思うんですよね。でも、この作品、意外と僕とお母さんのシーンって少ないんですよ」
松永「前半は母親は出てこないし、描いていないところで2人の関係性がしっかりあるので」
宮沢「完成した映画を見て、浩輔さんと龍太のお母さんのシーンの方が遥かに多いし、その二人の時間が微笑ましく思えました」
松永「龍太の母親役を誰にお願いするのか、そこのキャスティングを考えるときに大切にしたことは、芯が強い人で、苦しみは表情に出さずに前向きな人に見えること。僕はすぐ泣く人なんですが、うちの母親から、絶対に人前で苦しい顔とか、悲しい顔をするなって言われるんです。特に大人になって、社会人になってからというか、まあ、会社に勤めたことないですけど(笑)、人前で感情を露にするのは良くない、辛くても笑っていなさいみたいなこと言われていました。
未だ、それはできてないんですけど、でも、このお母さんはそういう人だなって思ったんです。女手一つで龍太を育てる中でいろいろ大変な事があったかもしれないけど、見ているお客さんには彼女の生命力を感じてほしかった。ある悲しい場面で、大勢の人の前では気丈に振舞っていて、その後、家で一人でぼーっとしているときに、浩輔がやってくるんですけど、その瞬間、気丈になる」