計画を立てない楽しみ方

――夜に時間をかけて歩くからこそ、思い至ることがあるんですね。

もちろん昼間も等しく存在し続けてるわけですけど、特に夜は暗くて視野が狭かったり、景色の色味が落ちたりするので、なんでもないものにも意味があるように見えてきて。こっちが勝手に何かを理解するっていう側面は、多々あると思いますね。

夜、ムダ上等で歩いてる精神状態だとそうなるんですけど、皆なかなかそれはやらなくて。夜にジョギングとかウォーキングをする人もいますけど、そこにはウォーキングっていう目的があるじゃないですか。いろんなものへの興味よりも、その目的が勝ると思うんですよね。

でも徘徊って、徘徊なので(笑)。構えを解いて街に飲み込まれていくのって、わりと簡単だし楽しいけど、みんなやろうとしない。やる必要がないのかもしれないですけどね(笑)。

「行ってから考えよう」の構えなら、
何も起こらなくても楽しめる

ピエール瀧が東京23区の夜を「ムダ上等」で徘徊して見つけたもの「全部のものに平等に時間が流れていることは、残酷でもあるし、美しくもある」_3
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――構えを解いて飲み込まれていくのって、瀧さんのお仕事へのスタンスや生き方にも通じるのかなと思いました。俳優を始めた時も「役者をやるぞ!」という感じではなく、構えず、まずそこに入ってみて、目に留まったものを見て、感じて、角を曲がってみて、また見つけて、みたいに取り組んできたのかなと。

俳優もね、「よーし、今日から俳優やってみるかな」って始めたわけではないので。やらない?って言われたんでっていうね(笑)。僕もやるって言いましたっけ?って感じでやってきたので。

人って、計画を立ててそれに沿ってクリアポイントを通過して「着実に前に進んでるぞ」って確認しながら行く人と、「行ってから考えよう」っていう人がいると思うんですけど、僕は「行ってから考えよう」の人なんですよね。

旅行と同じで、いろいろ計画を立てて行く人と、とりあえず行って空港に降りてから「さてどうする」っていう人がいて。どっちも楽しさはあるんですけど、後者の方は、トラブルとか予期せぬ面白いことが降りかかってくる楽しみがある代わりに、何も起きない可能性もある。となると、何も起きない時を楽しめるような構えをしておけばいいと思うんですよね。

――不測の事態や、何も起こらない中でも楽しめる力が養われていきそうですね。

そう。行った先で、「さーて、どっちがやばそうかな」とか、「人がみんな、あっちに歩いていくから行ってみよう」っていうような直感も養われると思いますね。