地上波では描けない時代の問題にメスを入れる作品

「ここが時代のボーダーライン」断ち切るものに向き合う時期が来ている――斎藤工が映画『イチケイのカラス』で向き合う時代の光と闇_1
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――月本という人物は、斎藤さんが演じるからには「心優しき人権派弁護士」というキャラクター設定どおりにはいかないだろうと思っていましたが、想像以上に、この映画版を象徴する人物で驚きました。

怪しいですよね(笑)。完成披露試写で「心優しき人権派弁護士」って紹介されたときも、そのフレーズからもう影の匂いがするなって思いました。

――斎藤さんは月本を「司法の光と影を象徴する人物」とおっしゃっていましたが、彼が『イチケイのカラス』の物語に、血の通った生物のような司法の生々しさをプラスしていると感じました。斎藤さんは、この物語で描かれていることをどう受け取りましたか?

連続ドラマから劇場版が生まれる流れは、90年代、2000年代もあったんですけど、このパンデミックを境に、その世界線も少し変わってきたと思うんですね。

作品の既存のファンに向けた形をとりつつも、それ以外のマジョリティや海を越えたところにまで届く作品のクオリティが求められる厳しい時代に差しかかっている中、今回の劇場版がどういうものになるのか、とても興味がありました。

この映画では、ローカルエリアや、たとえば幼稚園のお母さんのグループとか、そういうコミュニティにおける言語化できないルールを描いていて。僕がいる映像業界の習慣も含めて今、パンデミックを境に、それを見直すフェーズに来ていると思うんです。

そんな時代の変わり目にふさわしい作品として、地上波では描ききれない、地域によっては進行形で起こっているセンシティブな問題にメスを入れるという、劇場版ならではの骨組みに先進性を感じました。