他人を理解するなんてことは到底無理

──美術やインテリアなど、細部にもこだわりを感じる作品でした。特に植物だらけの宮子の部屋のインパクト大です。

部屋の中がジャングルみたいですよね。あまりに枝葉が伸びすぎて、窓も閉められなかったくらい。撮影中もずっと窓を開けっぱなしだったので、めちゃくちゃ蚊に刺されました。

でも宮子はきっと、「蚊に刺されても気にせずそのままいる子だよね」って監督と話し合って。コンシーラーで隠すこともしなかったので、よーく見たら跡が映っているかもしれません(笑)。

──演じた宮子は、つかみどころのないミステリアスなキャラクターですね。

脚本を最初に読んだときは、もう全然わかんなくて(笑)。ススメの妄想の中で作り上げた女性なのか、幻なのか、とにかく実在しない感じがしました。こんな妙な人、現実で見たことないですし。

だから脚本を読んだだけでは、自分の中で話し方や佇まいの方向性が追いつかなくて。監督と話す中で、「とにかくゆっくり喋ってください」、「常に口は半開きで」など、具体的な指示をいただきました。すべてが曖昧な感じは意識しましたね。

「ベッドシーンも意味のあることであれば、抵抗感はない。スタッフさんの方が大変そうでした(笑)」馬場ふみか、映画『ひとりぼっちじゃない』で官能的なヒロインを熱演!_2

──そんな謎の多い宮子に恋するススメを通し、映画ではコミュニケーションの難しさを描いています。馬場さんは、相手の真意を察することの難しさに直面したとき、どう対処しますか?

結局は違う人間だから、わからないときはしょうがないと思うかもしれません。それでも気になるときは聞いたりすると思うけど、根本には、他の人のことはわからなくて当たり前だ、みたいな感覚がありますね。

仲がいい人も、自分と似ている人ってあまりいないんです。たとえばLicaxxxと私はすごく仲がいいけど、似ているかと言われると中身は全然違う。だから理解できないと思うこともあるんです。

誰かのことを理解するなんてことは、到底無理。ただ、「違う考えを持っている人なんだ」ということを、知っておくことが大事なんだと思います。

──監督はこの映画のことを「ホラー映画」と表現しているそうですが。

いや、本当に怖いですよね。私も恋愛映画だとはまったく思っていなくて。サスペンス味があると思いました。

余計な音楽やセリフが一切ないし、映像ですべてが物語られていく。井口さん演じるススメが宮子の家の物置に入っているシーンなんて、完成した作品で初めて見て「やばいやばい……」って思いました(笑)。

試写では井口さんとも一緒だったのですが、試写室を出てスタッフみんなと集まっても、誰の口からも言葉が出ないというか(笑)。何というべきか、感想が非常に難しい作品でした。

まったく意味がわからなかったっていう人も絶対にいると思うし、とてつもなく共感する人もいると思う。見る人によって受け取り方は違うので、それこそ、いろんな人がいるってことを知ることができる映画だと思います。

「ベッドシーンも意味のあることであれば、抵抗感はない。スタッフさんの方が大変そうでした(笑)」馬場ふみか、映画『ひとりぼっちじゃない』で官能的なヒロインを熱演!_3
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取材・文/松山梢 撮影/猪原悠 ヘア&メイク/ スタイリスト/石田綾

『ひとりぼっちじゃない』 2時間15分 日本
監督・脚本:伊藤ちひろ
企画・プロデュース:行定勲
出演:井口理(King Gnu) 馬場ふみか 河合優実 他
人とうまくコミュニケーションが取れない歯科医のススメ(井口理)が恋をしたのは、アロマ店を営む宮子(馬場ふみか)。宮子は部屋に鍵をかけず、突然連絡が取れなくなったりする、つかみどころのない女性だった。それでも彼女と抱き合っていると、ススメは自分を縛っている自意識から解放される気がしていた。ところが、謎の多い宮子を前に、自分は彼女のことを理解できていない、と思い悩むススメ。ある日、宮子の友達である蓉子(河合優実)が、ススメに宮子の身に起きた驚きの事実を告げる。
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2023年3月10日(金)より東京・渋谷シネクイント他で公開