感動的だったアカデミー賞での受賞スピーチ
4回目のノミネーションをもたらした『ジョーカー』(2019)で、ついにアカデミー主演男優賞を受賞。
受賞のスピーチでは「僕はだらしない男だったし、共演者に残酷だったり自分本位に振る舞ったりすることが多々ありました。そんな僕を許してくれて、諦めないでサポートし続けてくれた人たちに感謝の気持ちでいっぱいです。間違いを犯した人を見捨てることなく、反省を受け入れ、やり直しのチャンスを与えてくれた。これは人間というものの最良の部分のような気がします。僕の兄が17歳のときにこんな詩を書きました。“Run to the rescue with. love, the peace will follow (愛を心に救いに向かえば、いつか安らぎ届くだろう)”と。ありがとうございます」と涙ながらに言っていた姿が印象的でした。
兄とは『スタンド・バイ・ミー』(1986)で知られるリヴァー・フェニックスのこと。1993年に薬物の過剰摂取が原因で死去。クラブで一緒にいたホアキンの目の前で倒れました。
その後約30年間、インタビューでホアキンがリヴァーという名前を発したのを聞いたことがありません。“兄”という言葉でさえもです。このスピーチを聞いて、彼のリヴァーへの長年の思いが昇華したように感じられました。
パートナーのルーニー・マーラとの間にできた男の子(2020年9月生まれ)に、リヴァーという名前をつけたそうです。イギリスの新聞「Sunday Times」では「僕はベジタリアンだけど、息子のリヴァーにはそれを押し付けることはしない」と語っていました。いい俳優である彼は、いい父親でもあるようです。
現在はリドリー・スコット監督作『Napoleon』の撮影の真っ最中。演じるのはもちろんナポレオン・ボナパルト役です。妻のジョセフィーヌを演じるのはドラマ『ザ・クラウン』のマーガレット王女役で知られるヴァネッサ・カービー。ナポレオンと妻との愛憎が描かれるそうで、ホアキンのさらなる名演が見られそうです。
『カモン カモン』(2021) C’MON C’MON /上映時間:1時間48分/アメリカ
監督・脚本/マイク・ミルズ
出演/ホアキン・フェニックス、ウディ・ノーマン、ギャビー・ホフマン
公開中
https://happinet-phantom.com/cmoncmon/
ホアキン・フェニックス●Joaquin Phoenix 1974年10月28日、プエルトリコ生まれ。兄リヴァーの影響を受け、『スペースキャンプ』(1986)で映画デビューし演技の世界へ。主な出演作は『グラディエーター』(2000)、『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』(2005)、『ザ・マスター』(2012)、『her/世界でひとつの彼女』(2013)、『ジョーカー』(2019)など。
文/中島由紀子 構成/松山梢