突如ラッパーに転向するなど数々の奇行が話題に

2008年に俳優業をリタイアし、ラッパーに転向すると宣言したこともありました。結局はケイシー・アフレックが監督したモキュメンタリー『容疑者、ホアキン・フェニックス』(2010)の演出だったことが後にわかるのですが、当時は数々の奇行が話題になりました。

取材中も、ジョークなのか本気なのか判別がつかない発言や不思議な行動をするのを目にしたことがあります。突然立ち上がって窓辺のカーテンの陰に隠れて出てこなかったり、「この前も話したよね」とか、「まさかその質問本気じゃないよね」と、気に入らない質問に露骨にイラつきを見せたり。

「自分のことばかりしゃべるのって不自然すぎる。何十人もの前で一方的に質問される……。そんな偉そうな事態に値することをしてるのかな?と思うときがある」と語っていましたが、そういうときでさえ「ちゃんと答えなくごめん」とか「質問の答えになってないよね」など、フォローを入れるところが、彼の人のよさを表しているような気がしました。

カムバックを飾ったのはポール・トーマス・アンダーソン監督の『ザ・マスター』(2012)です。『グラディエイター』(2000)でアカデミー助演男優賞に、『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』(2005)で同主演男優賞にノミネートされた過去があるため、この作品での主演男優賞候補は、3回目のオスカー・ノミネーションとなりました。

当時、彼の演技に対し絶賛の声が上がっていたのですが、「役者の演技だけでストーリーテリングが成り立つものではなく、ビジョンを持った監督によって作品は作り上げられている。特にポール(・トーマス・アンダーソン)のようにはっきりしたビジョンを持って映画作りをする監督の場合、どの部分を切り取って見てもポールの作品とわかるほど。俳優の演技は監督のビジョンを画面に再現するだけ。だから僕はポールの猿回しの猿に過ぎないんだ」と語っていました。

なぜいつも救いようのない役が僕のところに来るのかわからない――。映画『カモン カモン』ホアキン・フェニックスの狂気と良心_c
©HFPA
2000年、『グラディエーター』の取材での中島さんとホアキン
なぜいつも救いようのない役が僕のところに来るのかわからない――。映画『カモン カモン』ホアキン・フェニックスの狂気と良心_d
©HFPA
2019年、『ジョーカー』の取材で