被告の言葉から窺える「母親からの呪縛」

男たちの性欲の捌け口とされ、産まれたばかりの子を殺した女が逃れられない実母の呪縛「刑務所を出たら、お母さんと暮らしたいです。だって、お母さんとは…」_4
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この事件から考えなければならないのは、A子の人格の問題だ。

まず家庭環境によって、A子はどんな不条理なことをも受け入れる性格になってしまった。当初は家庭内で生き延びる方法だったのだろう。だが、思春期になると、その性格が災いし、男たちに欲望のはけ口にされた。

さらにシングルマザーとなってからも、A子は母親だけでなく叔母の支配下に置かれる。そして稼いだ金を搾取され、妊娠したことすら言い出せず、問題を先送りにしているうちに出産。赤ん坊を殺害し、隠すことにつながったのである。

こう考えてみると、A子が嬰児殺しに至った歪んだプロセスがわかるのではないだろうか。障害や病理といった問題がなくても、ある性格と環境が重なった時、こういう事件が起きることがあるのだ。

無論、ここで紹介したのは事件全体の一端に過ぎない。詳しい経緯は、拙著『「鬼畜」の家 わが子を殺す親たち』にルポとしてまとめているので参照していただきたい。付け加えておきたいのは、逮捕された後も、A子は母親の呪縛からは自由になることができなかったことだ。裁判の中で彼女は次のように話したのである。

「刑務所を出たら、お母さんと暮らしたいです。だって、お母さんとは仲良しだと思ってるし、好きだし、信用してるし……だけど言い出せなくて、ごめんなさい……。私が早く言えなかったから、お母さんまで責められてかわいそう……。だから、仲良くおうちで一緒に暮らしたいです」

彼女は母親が自分に及ぼした影響すら無自覚なのだ。そこにこそ、この事件の根深さがあるといえるだろう。

取材・文/石井光太