西成差別、日雇い労働の実態、貧困のスパイラル分析…なぜ、西成高校では「反貧困学習」が行なわれているのか?はこちら

中学校の先生自身が「西成高校」に対して差別発言!

2022年10月13日、久しぶりの登場に生徒たちの何人かが、顔を見て恥ずかしそうに微笑んでくれる。

今回訪ねたのは、西成学習3回目の授業だ。

「西成」とは、大阪市西成区の北西部のことを指す。大阪市西成区には「日本最大の都市部落」と言われる被差別部落があり、隣接して日本最大の日雇い労働者の街・釜ヶ崎(あいりん地区)がある。

戦前、1923年に済州島と大阪の間に直行便が就航されて以降、多くの朝鮮人が大阪に渡航、西成区に暮らし始めたことで、在日コリアンの人たちも多く居住する。

それぞれに困難な課題を抱える人たちが暮らすこの土地は、部落差別、民族差別、寄せ場の日雇い労働者差別など、さまざまな差別と偏見が凝縮された場所でもある。

2学期の始めに製靴産業と部落差別について学んだ生徒たちは、被差別部落出身の高齢者には、家が貧しく小学校にもいけなかったため読み書きに困難を抱える人もいることを知った。

こうした被差別部落の差別問題とそこに生きる人々についての学習に続き、今回は、「西成差別」がテーマだ。それは生徒たちが当事者となる授業でもあった。

西成高校は、西成区唯一の全日制普通科高校だ。「西成」という<レッテル>を背負う生徒たちは、世間のどんな視線に晒されているのだろう。

ポンポンと軽やかで明るい口調の担任、中村優里(27)がプリントを配る。反貧困学習は毎回、前回の授業を振り返った後に、今回のテーマに入るという構成になっている。

学校の先生もテレビも「西成を差別と偏見の目で見ている!」と憤る生徒たち_1
1年5組のホームルーム風景。この日は席替えを。担任の中村優里が明るくテキパキと生徒たちと話し合って行く
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前回は、60歳から識字教室に通った被差別部落出身の女性が、銀行でお金を引き出すのに、文字が書けないばかりに引き出せなかった悔しさを自分の文字で綴った作文を読んだ。その女性は家が貧しくて小学校に行けず、家の手伝いをしてきたので読み書きができなかった。

毎回、生徒たちには感想を書く時間がたっぷり用意されているが、この授業でのテーマは、「悔しかったこと」。中村が読み上げて行く。

「自分の努力が社会に認められないことが悔しいのはわかります。私は今でも書けない漢字が多く、(でも)他の人たちには書ける。自分にとっての普通と、相手にとっての普通が違うと思うのは悲しいと思います」

作文を書いた被差別部落出身の女性と、同じような思いを抱えている生徒がいた。

「あのなー」と中村が、明るく問いかける。

「今、廊下にいる肥下先生にも悔しいこと、あってんて。読むよー。15年前に中学校の先生たちに西成高校のアンケートをやったら、『西成高校は不良の集まり。先生も全員、入れ替えろ!』という回答があったって」

男子生徒が一言、「クソや!」。

肥下彰男(63)は2007年、西成高校で「反貧困学習」を始めた教員だ。今年度から始まった“バージョン2”の教材も、全て肥下の手によっている。

学校の先生もテレビも「西成を差別と偏見の目で見ている!」と憤る生徒たち_2
<反貧困学習>を主導する、肥下彰男。学習の目的は「社会への批判を持った主体を育てる」こと。大学生の時に訪ねたバングラデシュでの識字教育が、自分達の生活をどうして行くかを話し合う手法で行われていたことにヒントを得た

廊下にいた肥下が教室に入ってきて、“その後”を話す。

「ひどいやろ。当時だって真面目な生徒はたくさんいたし、先生たちも頑張っていた。だから、『書いた先生を出せ、喋らせろ』って中学校の校長に言いに行った。なのに、その先生を出さへんかった」

女子生徒が「ひげちゃーん」と、うれしそうに肥下を見ている。

「ひどいよなあ」という肥下の言葉に、みんながうなづく。

「中学校の先生や。大人が、書いてんねん」

男子生徒が声を上げる。

「ほんま、そっちのレベルの方がひどいやん」