「女性もセックスを楽しんでいい」性に寛容な世界
裏垢をはじめる以前は、性行為がタブーなものと感じていたあぐさんは「セックスは男性が楽しむもの・男性主体のもの」と思っていたそうだ。しかし裏垢をはじめてみると性を存分に楽しんでいる女性が多いことを知り、「女性でもセックスに積極的になっていい」ということに気づくことができたという。
「裏垢には思い切りセックスを楽しんでいる女性もいます。また自分の性癖を発信している人や、好奇心のままSMやハプニングバーなどの世界を楽しんでいる人もいます。そのような人たちと触れあって『女性もセックスを楽しんでいいんだ!』と素直に思えるようになりました」
裏垢をはじめてセックスレスの悩みを共有でき、また、自身の性欲に忠実になれた、あぐさん。
彼女にとって裏垢は心の救いになったが、実際には男女の出会いの場になっていることもあってトラブルの危険性も孕んでいるのが実情だ。これから裏垢を始めたいという女性に対して「情報収集・判断能力」が必要だと話す。
「知らない世界を知るのは何においてもいいことだと思います。そのため好奇心旺盛で、情報の取捨選択ができる人は向いているかもしれません。逆に向いていないのは恋愛がしたい人、真面目な人、優しい人、そして承認欲求が強い人だと思います。
特に承認欲求で裏垢を始めると『どこかで認められたい』『なにか現実で満たされていない』という感情が、男性の性欲とマッチしてしまいます。承認欲求を満たすためのセックスを繰り返してしまうと依存状態になったりトラブルになったりして、最終的に自分が傷ついてしまいます」
もし裏垢をするとしたら「条件の合う人としか会わない」「写真を載せるだけにする」など、自分なりの方針を決めておくのが一番大事だとあぐさんは話す。デジタルタトゥーにもなりかねない裏垢の世界。物事を正しく判断する能力とセックスに依存しない自立心が必要だ。
裏垢の世界は、普段話すことのできないセクシャルな内容を公に話すことができる特殊な場所だ。使い方によってはあぐさんのように心が救われる人もいれば、逆に欲望に呑まれてしまう人もいる。人によって相性の良し悪しがはっきり出てしまうからこそ、表のアカウント以上に細心の注意が求められる世界だ。
性について話すことが憚れる現代日本社会では、裏垢のような世界がいま必要なのかもしれない。
取材・文/越前与