〈名古屋ドン横キッズたちの今〉流れた公園でホストからの呼び出しを待つ少女たち。支援に乗り出した婦人科医は「彼女たちは妊娠や性病に感染しても後回しにしてしまう」
歌舞伎町のトー横キッズに限らず、少年少女たちは居場所を求めて繁華街のシンボル付近の公園や広場に集う。名古屋市中区栄のドン・キホーテ横、通称「ドン横」や大阪道頓堀グリコサイン下の「グリ下」などもそれだ。しかし名古屋のドン横は再開発のため昨年6月に閉鎖。かつてそこにたむろしていたキッズを見守る名古屋市で婦人科クリニックを営む院長に彼、彼女たちの現在を聞いた。
「ドン横」閉鎖で若者たちが流れた場所とは
そもそもトー横キッズなるものが一般的に認知されたのは2021年ごろ。少年少女らが待ち合わせ場所に、2018年ごろから歌舞伎町の新宿東宝ビル(TOHOシネマズ新宿)横のシネシティ広場を使うようになり、その後、彼らの間で犯罪や売春行為等が横行、その問題を多くのメディアが取り上げたことによる。
「ドン横」や「グリ下」などはまさにその後発だが、名古屋のドン横は昨年6月に地上211メートルの新たなシンボルタワーの建設開始により閉鎖。そこに集っていたドン横キッズたちは、同じ名古屋市中区栄の別の公園に移動しているという。
風俗嬢と客の待ち合わせ場所にもよく使われる栄の池田公園で、若い女性に飲み物、お菓子、コスメ、生理用品の無料提供スペース「街角保健室☆ケアリングカフェ」を昨年7月から毎月2回主催する咲江レディスクリニックの丹羽咲江先生が言う。

「ドン横」から流れた若者たちが多く集まる栄の池田公園
「ドン横の閉鎖以降、キッズたちはオアシス21(公園や商業施設との複合施設)やこの池田公園に散らばった印象です。特にこの池田公園は周囲にホストクラブが点在していることもあり、ホストから呼び出されるのを待っている14歳から20代前半の女の子を多く見ます。
通常、ホストクラブは18歳未満は入店禁止ですが、なかには年齢確認もせず入れる店もあるようです」
「街角保健室☆ケアリングカフェ」では、物資の提供のほか、丹羽先生や養護教諭、バーのママなどが若い女性たちの相談に乗る場をもうけている。丹羽先生は主に性感染症や妊娠の不安、生理痛などの相談に乗っているが、ここでのアンケートによれば、10代の大半が「20人以上と性交経験がある」と回答している。

「街角保健室☆ケアリングカフェ」
「つい先日、ホストに行くためにパパ活をしているという17歳の女の子から『性器から悪臭がする』という相談を受けました。
パパとのときはゴムをつけるけど、ホスト相手のときはつけないと。
『性病感染したかもしれないという自覚はあるけど、パパから[この臭いに興奮するんだ]と言われるため、性病検査は行っていない』とのことでした」(丹羽先生、以下同)
壮絶な性病に感染する10代の女の子たち
丹羽先生はそのような若い女性たちに性感染症の種類とそのリスクを説明する。
説教にならないように女性目線で話すことを心がけており、ここでの出会いをきっかけに丹羽先生が運営する咲江レディスクリニックへ受診に来てくれる女性もいるという。
「受診に来てくれた18歳の子は、とてもきれいな子で、風俗で働きながらヤクザの美人局をしていると言ってました。
生理が来ないというので検査をすると妊娠反応が出たのに加え、梅毒も陽性だったため急きょ、治療をして中絶手術をしました。ですが、梅毒のその後のフォローアップには来ず……。きちんと治っているか心配です。
このように性感染症の治療途中で来なくなってしまう子は非常に多いのです」
クリニックでは児童相談所に入所する際の子どもの性感染症や妊娠検査も行っているが、丹羽先生いわく、公園に集う10代の子どもたちは、性感染症や妊娠が発覚しても後回しにする傾向があるという。

若い女の子たちの話を聞く丹羽先生
一方で、壮絶な性感染症や妊娠の果てに、出産することを決めた子もいたそうだ。
「15歳でトー横でパパ活をし、その後、地元の名古屋に戻ってドン横にいた子は、咳止め薬をオーバードーズしてビルから飛び降りようとしたところを取り押さえられ、児童相談所に入所することになりました。
彼女は子宮頸がんの原因となる6種のヒトパピローマウイルスと尖圭コンジローマ、クラミジアに同時感染していました。コンジローマのイボは膣内にまでびっしりとできており、レーザー医療を6回ほどして完治しました。
その後、妊娠していることがわかり、妊娠12週に差し掛かるタイミングで産むことを決断したんです」
母親としての自覚を持って、しっかりと育てようとしての決断かというと、そうでもなかった印象を受けたという。
「なんとなく産むという感じでした。もちろん相手とは今も連絡が取れず、出産後の環境についても不明。12週目以降の検診は総合病院に移ってしまったため、今どうなっているかわかりませんが、相談があればいつでも支援したいと思っています」
集う若者たちにすべき大人の役割とは
昨年、設立20年を迎えた咲江レディスクリニックでは、毎日100人以上の患者を診ている。その他、中高大学だけでなく少年院での性教育に関する講演などを行いつつ、池田公園での活動も続けていく。その原動力は何なのか
「よく、居場所がないからドン横や池田公園に集まると言いますが、彼、彼女らの実家は必ずしも虐待やネグレクトがあるわけではありません。
家や学校に居場所はあっても、もっと楽しい場所があるから来てしまうんです。大事なのはそこに見守る大人がいるかどうか。
ですが、警備的に見守るのではダメです。学校の保健室のような、子どもたちがいつでも気ままに来れて、無条件に受け入れてもらえる場所であることが重要だと思ってます」

また、丹羽先生は「本当に危険なのはドン横や池田公園に集う子たちではない」と話す。
「マッチングアプリで出会って相手の身元がはっきりしないのにセックスをして……と常に単独で行動している女の子が一番危険です。
そういう子こそが意図しない妊娠をすると、どこともつながりがないから育てるつもりもないのに子どもをひとりで産んで、そしてコインロッカーなどに遺棄してしまうのです。
だからこそ、公園などに集まる子どもたちも含めて、そこにうまく大人が介入するような仕組みを作れたらと思います」
丹羽先生自身もひとり娘を産んだあと30代で離婚し、更年期障害に苦しみながらもクリニックを開院して仕事を続けている。
「すべての女性の“幸せだと思える人生を歩むお手伝い”ができたらと思って、日ごろの診療や街角保健室の活動をしています」と丹羽先生は言う。
後編では大阪のグリ下に集う若者たちの現状を取材する。
取材・文/河合桃子
集英社オンライン編集部ニュース班
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