2005年の表紙をずらりと並べると、ある異変に気付く。女性はシャーリーズ・セロンのみで、他すべてが男性なのだ。創刊当初から「ロードショー」の表紙は、カトリーヌ・ドヌーヴ、ファラ・フォーセット、フィービー・ケイツと、その時代を代表する女神たちが彩ってきた。70年代はアラン・ドロン、80年代はジャッキー・チェンやリヴァー・フェニックスが登場することもあったが、女性優位は揺るがなかった。

女性の表紙は1年間で1回のみ! 女優主導だった「ロードショー」の歴史が完全にひっくり返ったのは、ハリウッドの体質の変容を反映していたから!?
創刊の1972年~80年代にかけて、「ロードショー」の表紙はほぼ女優が飾ってきた。90年代以降、男優スター人気が上昇し、2005年はついに、1冊以外全部男性に! 大作主義にシフトしたハリウッドで女優が生き残るための方法は…
ロードショーCOVER TALK #2005
男優スター圧倒的優位時代

ちょうど30年前の1975年、1月号(ジュリアーノ・ジェンマ)をのぞきすべての表紙は女優のあでやかなほほえみが飾っていた…
©ロードショー1975年/集英社
変化が起きたのが90年代で、ブラッド・ピット、レオナルド・ディカプリオの台頭もあって、男性比率があがりはじめる。そして、00年代になると完全に逆転し、ついに女性ひとりにまで追いやられてしまったのだ。
表紙は雑誌の顔だから、編集側の思惑もあるだろう。読者層の変化や『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズのブーム(オーランド・ブルームが3回、ジョニー・デップが3回)に対応したのだと想像できる。
だが、洋画誌ゆえに、アメリカ映画の変容が影響を及ぼしていることは間違いない。この頃からハリウッドは大作主義を加速させていく。それまでのハリウッドは、ざっくりというと、大・中・小、3つの価格帯の映画を製作していた。大は万人向けの大作映画、中はロマンティックコメディやサスペンス、小は野心的な低予算映画だ。
しかし、00年代になると、VFX 満載の大作映画が相次いで大ヒットを飛ばしたことから、中規模の製作を控え、大作を優先するようになった。予算が増えると、それだけリスクも高くなる。そこで、すでにファンが存在する原作モノばかりにゴーサインが下りていくことになる。2005年の興行収入ランキングをみても、1位の『ハウルの動く城』(2004)のあとに続く『スター・ウォーズ シスの復讐』『宇宙戦争』『チャーリーとチョコレート工場』(すべて2005)は、スター主演作であることはもちろん、いずれも「原作もの」である。
この頃の大作映画で主役を張るのはたいてい男性である。おまけに中規模映画が消滅してしまったことより、女優が活躍できる場所が減ってしまったのだ。
自らプロデュースに乗り出す女優たち
紅一点となったシャーリーズ・セロンは南アフリカ共和国の出身で、モデルを経て、女優に転向した。『ディアボロス 悪魔の扉』(1997)と『スウィート・ノベンバー』(2001)でキアヌ・リーヴスと共演していたから、「ロードショー」読者のあいだではよく知られていたものの、ブロンドのセクシー美女というイメージが強かった。だが、『モンスター』(2003)で実在の連続殺人鬼を演じるために体重を増やして肉体改造を行い、卓抜した演技力を披露。アカデミー主演女優賞を受賞した。

完璧な美貌と明晰な頭脳、鉄の意志と実行力をあわせもつシャーリーズは新世紀のアイコンに
©ロードショー2005年4月号/集英社
セロンがすごいのは、『モンスター』は誰かにオファーされたのではなく、プロデューサーとして企画開発を行っていたことだ。やりたい役柄がないと嘆いているよりも、自ら作り出す道を選んだわけだ。アカデミー主演女優賞受賞で女優としてのステージをあげた彼女のもとにはオファーが殺到。それと並行して、『アトミック・ブロンド』(2017)『スキャンダル』(2019)『オールド・ガード』(2020)などの主演作を自らプロデュースしていく。
リース・ウィザースプーン、ニコール・キッドマン、マーゴット・ロビーといった人気女優たちも同様にプロデューサー業に進出。単なる女優としてだと、作品に関わる期間はとても短い。リハーサルと撮影だけで、あとは宣伝で稼働する程度だ。だが、プロデューサーになると原作やキャストの選定から、プロモーションまで製作全体に関わることになる。長期にわたって拘束されることになるが、それでも女優たちがプロデューサー業に進出するのは、作品に自らの影響力を及ぼすことができるからだ。おかげで、女性が主人公の物語が映画やドラマで生み出されるようになるのだ。
◆表紙リスト◆
1月号/ジョニー・デップ 2月号/オーランド・ブルーム 3月号/ジョニー・デップ 4月号/シャーリーズ・セロン 5月号/レオナルド・ディカプリオ 6月号/オーランド・ブルーム 7月号/ユアン・マクレガー&ヘイデン・クリステンセン(後者のみ初登場) 8月号/ヘイデン・クリステンセン 9月号/オーランド・ブルーム 10月号/ジョニー・デップ 11月号/オーランド・ブルーム 12月号/ダニエル・ラドクリフ
表紙クレジット ©ロードショー2005年/集英社
ロードショー COVER TALK

編集長が暴露! ジョニー・デップの表紙が続いたのは部数低迷のせい? フィービー・ケイツ人気は日本だけ? 「ロードショー」でいちばん売れた号は?
ロードショー COVER TALK #最終回

【ついに休刊!】のべ142人が飾ってきた「ロードショー」の表紙。最終号は意外にも…? そして国内外の大スターたちから別れを惜しむ声が届く
ロードショーCOVER TALK #2009

【休刊まであと1号】生き残りをかけて、邦画とゴシップ中心に方向転換した「ロードショー」。しかし回復できないまま、2008年最後の号を迎える。その表紙を飾ったのは、意外にも…?
ロードショーCOVER TALK #2008

【休刊まであと2年】日本俳優初の単独表紙を飾ったのは、木村拓哉。邦画の隆盛とハリウッド映画の失速、新スターの不在など厳しい条件下で、「ロードショー」は“洋画雑誌”の看板を下ろす決意を!?
ロードショーCOVER TALK #2007

【休刊まであと3年】1年の半分の表紙を飾るというジョニー・デップ祭り! 一方、ブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリーのベビー・カバーはお見せできない…その理由は!?
ロードショーCOVER TALK #2006

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『ハリポタ』人気にオーランド・ブルームの登場で盛り上がる洋画界。だが、日本映画の製作体制の劇的変化が、80年代から続いてきた“洋高邦低”を脅かし始める…
ロードショーCOVER TALK #2003
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