「創業の地を守るか、洋菓子店を出すか」の葛藤

そのほか、既存のルノアール以外で収益性を高めるため、2022年3月には洋菓子ブランドの「シャトレーゼ」とフランチャイズ(FC)契約を締結し、食物販ビジネスにも手を広げた。

コロナ禍で年間35億円の売上減を乗り越えて…ルノアール一筋50年のベテラン社長が今も忘れない創業者の衝撃的な教え「店は出すけど、商品は出さない」とは_9
2022年7月にシャトレーゼと提携して中野ブロードウェイにオープンした

「この事業展開に関しては、収益的な観点では売上を担保するところまで成長していないので、何かマネタイズできるものはないか探していました。そんな折、シャトレーゼの洋菓子を購入するために、お客様が並んでいる光景を見かけたんです。試しに自分もさまざまな商品を買って食べてみると、素材本来の味を活かした美味しさに心を打たれ、『これを売ろう』と思うきっかけになりました」(猪狩氏)

一方ルノアールは、地下や物件の上位階に店舗を構えている場合が多く、そこを業態変換してシャトレーゼを出店するのは難しい状況だったという。

出店場所を探していたところ、当社の喫茶店「Café Miyama」が入っている中野ブロードウェイ1階の店舗に目をつけた。この店舗をシャトレーゼに変えれば、売上の見立てがつく。

そう考えていたそうだが、当初は「ルノアールの創業の地、花見煎餅の店舗のあった由緒ある場所に、他社のブランドを掲げるのは果たしていいのか、相当な葛藤があった」と猪狩氏は語る。

「いわば、ルノアールの原点ですからね。思い入れの看板を下ろすわけですから、覚悟を決めるまでは結構悩みました。それでも、新規事業で始めたベーカリーやFCビジネスのシャトレーゼは、あくまで『銀座ルノアールを支えていく上で必要不可欠』というのを前提に考えることで踏ん切りがつきました」

2022年7月にオープンするや、予想をはるかに上回る好調ぶりを見せ、シャトレーゼの全店舗のうち、ベスト10に入るほどの売上を叩き出しているそうだ。